【連載】山本敦の発見!TECH最前線 第16回
“触れられる”AIやロボットで活気を取り戻したIFA、来年に向けた課題
ドイツ・ベルリンで開催されたエレクトロニクスショー「IFA 2026」を取材した。筆者がIFAを訪れるようになったのは2003年。今年も9月2日からのプレイベント期間を含む5日間、メッセ・ベルリンの広大な会場を歩き回った。
IFAは数年前に運営主体がメッセ・ベルリンから、英国のClarion Eventsの傘下にあるIFA Managementへ移った。2023年10月に同社のCEOに就任したライフ・リントナー氏による指揮のもと、イベントの立て直しが進められてきた。

何でもありだからこそ活気が生まれる
今年の最終的な来場者数は主催者の発表を待つ必要があるが、会場を歩いた筆者の実感として、期間中の一般来場者数は昨年の22万人よりも明らかに増えそうだ。
ロボティクスのほか、実際に触れて体験できるAIを前面に押し出したことが功を奏したのだろう。電動キックボードなどの見た目にも楽しいモビリティや、省エネ性能の高い白物家電による「節約」の提案も生活者の関心を上手く捉えていた。

一方で、現在のIFAは従来型のエレクトロニクスショーから、テクノロジーに関係していれば “何でもあり” なイベントに変わりつつある。白物・黒物家電に加えてヒューマノイドロボット、AI PC、スマートEVに電動キックボードなどのモビリティが同じ会場に混在する。
この雑多さは活気の源でもある。だが、取材者が「本当に面白いもの」を探し出し、意味のあるテーマとして書き分けるには時間がかかる。筆者も9月4日からの本開催の3日間ではとても全体を見切れなかった。
出展企業のグローバル化も一段と進んだ。正式なデータを待たなければ断定はできないものの、筆者の肌感覚では6~7割が中国などアジアに拠点を置く企業だった。

かたや、パナソニックにシャープ、サムスン電子が一般公開の大型ブースを設けなかったことが、成熟したブランドの「IFA離れ」を意味するのか。それとも来年には戻ってくるのか。今後のIFAの性格を占ううえでも気になるところだ。
大手の不在によって、ひときわ存在感を高めたのがXiaomiだった。かつてパナソニックが大規模な展示スペースを設けていた会場中心部のホールを舞台に、いま最も勢いのある総合家電メーカーのひとつとして洗練されたブースを披露した。
同じ中国の家電メーカーであるDreameもまた、メッセ・ベルリンに2つの大きなホールを使ってヒューマノイドロボットのコンセプトモデルや、階段の昇降を可能にするロボット掃除機などを先行展示して脚光を浴びた。


IFA Managementのリントナー氏は筆者の取材に対し、欧州のトレードビジターやリテーラー、投資家と接点を持てることがIFAへ出展する大きな価値だと語る。実際、シャープやパナソニックは商談に特化したBtoBスペースを構えていた。
ただ、一般来場者だけでなく、アポイントのないトレードビジターやメディアも入れない閉じた展示が最善なのかについては疑問も残る。一般の生活者が最新技術を体験する場であり、同時に業界関係者が商談を行う場でもある。この二面性こそIFAのユニークさであり、難しさでもある。

生成AIがスマートホームに浸透してきた
2003年から取材してきた筆者にとって、IFAはやはり「家電のイベント」だ。だからこそ生成AIやホームネットワークの進化を追い風に、家電が再び大きく変わろうとしていることに期待している。
今年、最も確かな前進を感じたのがLGエレクトロニクスの展示だった。LGはこれまでに、独自のAIモデルである「FURON(フューロン)」、コネクテッド家電の基盤「ThinQ(シンキュー)」、音声操作に対応するAIホームハブ「ThinQ ON(シキュー オン)」を揃えてきた。そして今年、新たにテキストチャット型のAIエージェント「ThinQ Claw(シンキュー クロウ)」を発表した。

ThinQ Clawはユーザーが普段から使っているメッセージアプリを窓口として、自然な言葉で家電を操作できる仕組みだ。例えば「今晩は何を作ればいい」とエージェントに相談しながら献立を決め、ホームネットワークにつながるキッチン家電の操作を連動させる。
スマートホームのために新しい操作方法を作り、それをユーザーに覚えさせるのではなく、誰もが慣れ親しんだアプリによるテキストチャットを入り口に選んだところに、AIエージェントを本気で立ち上げて浸透させようとするLGの気概を感じた。

LGは傘下のオランダAthomが展開する「Homey(ホーミー)」のデバイスを介して、他社のIoT機器ともつながる環境を広げている。
ただし、すべての機器を同列に扱うわけではない。外部製品との橋は架けながら、最新機能を最大限に引き出せる体験はLG製品どうしの連携で提供する。オープンな接続性と、自社エコシステムの価値を両立させる方向へスマートホームの考え方が整理されてきたように見える。
BSHハウスゲレーテ(ボッシュ・シーメンス)もネットワーク家電の共通規格であるMatterへの対応を進めている。シーメンスの冷蔵庫に続いて、ボッシュが欧州などで発売した第2世代のロボット掃除機もMatter認証を取得した。
Amazon Alexa、Apple Homeなどと連携すれば、家全体の文脈に基づく自動化が可能になる。ただBSHの担当者に聞くと、現状ではアップルやAmazonなどコントローラ側のプロダクトを持つ企業が、Matterが設ける家電のプロダクトカテゴリーに対する迅速な対応ができていない現状が浮かび上がってくる。
家電メーカーだけが規格に準拠してもスマートホームは完成しないのだ。仮にMatterという共通言語が整った次の段階で、各社が自社製品ならではの体験をどこまで磨き、差別化を図るための要素としていくのかが注目される。

日本企業にもIFAに参加してもらいたい
パナソニックやシャープがBtoBスペースを設けていたとはいえ、IFAにおける日本企業の存在感は残念ながら薄れつつある。
その中で継続的に挑戦している日本の企業もある。例えば、ストレージ製品などを「SUNEAST」ブランドで展開する旭東エレクトロニクスは、パンデミック後もIFAへの出展を重ね、欧州を中心とする海外のユーザーや取引先との接点を広げてきた。
IFA 2026のブースではSSDやメモリーカードに加え、監視カメラとローカル環境で映像を管理するシステム、充電器、モバイルバッテリーなど手がける製品を幅広く展示していた。
中でも目を引いたのが「NANO PRO シリーズ AI ポータブルSSD」だ。スマートフォンやPCで使える超小型SSDに、ワンタッチ録音とローカルAIによる文字起こし、要約、情報整理を組み合わせた。単なる録音専用機ではなく、写真や動画、仕事のファイルを保存する日常的なストレージに「記録して整理する」という機能を加えたところがユニークだ。

出展者である旭東エレクトロニクスの製品部 シニアマネージャーの勇恒氏によると、まずSUNEASTというブランドの知名度を世界で高めることがIFAに出展した目的だったという。「日本のブランドとしての誇りを持ち、製品の品質と挑戦する姿勢を海外に示したい」と勇氏は語る。

メモリ価格をはじめ世界の市場環境が不安定な時だからこそ、守りに入るのではなく攻めの姿勢を貫く。海外の新しい顧客を獲得するだけでなく、すでにSUNEAST製品を使っているユーザーに対しても、ブランドが前へ進み続けている姿を見せることが信頼につながる。
企業にとって意味があるのは「IFAに出展することだけ」ではない。世界最大級のコンシューマーエレクトロニクスショーを自分の足で歩けば、世界のメーカーが何を考え、生活者が何に反応し、次の家電がどこへ向かおうとしているのかが必ず見えてくる。
今年のIFAには、久しぶりに力強い勢いが戻っていた。日本企業にも来年はまず短期間でもベルリンを訪れ、この熱を肌で感じてほしい。そこから次の挑戦につながる発見がきっと得られるはずだ。
