惑星協会の最大13億ドル試算に、NASA長官「その2割でも打ち上げない」
NASA、火星探査ローバーの月面転用でコスト削減目指すも、そのコストに疑問が示される

6月下旬、NASAはPolar Rover for Observation, Mapping and In-Situ Exploration(PROMISE)と名付けられた、いわゆる月面探査ローバーについての新たな計画を発表した。
NASAの発表では、新型ローバーは火星探査で使用されているCuriosityおよびPerseveranceの各開発用プロトタイプのハイブリッドバージョンになるとされている。
PROMISEと呼ばれるようになる前は、CuriosityのテストモデルはMars Automated Giant Gizmo for Integrated Engineering(MAGGIE)と呼ばれ、またPerseveranceのテストモデルはOperational Perseverance Twin for Integration of Mechanisms and Instruments Sent to Mars(OPTIMISM)と呼ばれていた。
これらのテストモデルは、火星の地形を模擬的に再現し、実際に動かすことが可能で、火星上での走行ルートを検討・計画したり、地球から送信したコマンドに対してハードウェアがどのように反応するかを確認したりといった作業を技術者が行えるよう、実機に十分に近い設計になっている。
そして、新たに月面探査ローバーを開発する計画が持ち上がったとき、NASAの幹部らはアイザックマン長官が求める「かんたんに成功させられる」方法として、これら2つのテストモデルを組み合わせて、月面探査ローバーに仕立て上げることを思いつき、提案した。
これに対し、カール・セーガンらによって太陽系の科学的探査などを目的に設立された国際NGO / NPOの惑星協会は、いくら既存のハードウェアを流用したところで地上試験用に設計された機器が、宇宙飛行や月面運用にそのままの状態で使えるわけはないとし、必要な改造や追加の開発作業にかかる費用を独自に算出した。
コスト算出を行った惑星協会の宇宙政策責任者ケーシー・ドレイヤー氏によれば、アイザックマン氏が6月に説明した、月面における各種観測、地図作成、現地探査のための極地探査車(PROMISE)ミッションの推定費用は、7億2300万ドルから13億3000万ドルの間になるとのことだ。また、打ち上げと着陸にかかる費用は、最低で2億3400万ドル、最高で3億2000万ドルと見積もられている。

ドレイヤー氏は、MAGGIEとOPTIMISMは少なくともCuriosityとPerseveranceの技術的検討・検証用テストベッドとして利用できるが、双方のパーツを組み合わせたハイブリッド機を月面で十分に有用な科学調査を行える状態にすることは非常に困難だとの見解も示した。
なぜなら、2つの火星探査ローバーのテストモデルを改造しても、技術者らは結局月面を想定してハードウェアの動作検証を行う必要があるためだという。さらに月面環境に適合させるために通信機器の改造をしたり、プルトニウム放射性同位体電源システム(RTG)を統合したりといった大幅な改造作業が発生するため、期待したほどのコスト削減にはならないと警告した。
もっと言えば、現在も火星で活動しているCuriosityとPerseveranceのテストモデルを転用してしまえば、火星ミッションでこれらのモデルを用いた支援活動ができなくなり、トラブルへの対処などにも支障を来す可能性もある。
ドレイヤー氏は、「(アイザックマン長官が)すべての見積もりに同意するかどうかは別として、一つだけ明らかなことがある。PROMISEは決して『無料』ではない」と述べた。
アイザックマン長官はドレイヤー氏の見積もりについていちいち異議を唱えたりはしなかったが、現実問題として「PROMISEにかかる費用が、ドレイヤー氏の最低見積もりの2割でも超えようものなら、我々は単に打ち上げを行わないだろう」と述べた。そして「とはいえ、納税者が既に数億ドルを投資したハードウェアを活用しないのも愚かなことだろう」と述べ、自身の方針を正当化した。
NASAは、提案されているハイブリッド月面探査ローバーに関する詳細な費用見積もりを公表していない。よってプロジェクト全体の財政的な実現可能性は依然として不明だ
だがその将来は、技術者たちがコストを削減しつつ、地上の試験用ハードウェアを転用する際に直面するであろう技術的な課題をいかに克服するかにかかっていると言えそうだ。
- Source: The Register Engadget
- Coverage: NASA
