すでに満身創痍

Swift宇宙望遠鏡の軌道押し上げミッション、救助船「LINK」が姿勢制御系の故障でスピン状態に

Munenori Taniguchi

Image:Katalyst Space Technologies

NASAは、高度が低下しつつあるSwift宇宙望遠鏡を押し上げるため、民間航空宇宙企業Katalyst Space TechnologiesのLINK宇宙機を7月3日に打ち上げた。ところがそのLINKが宇宙望遠鏡に向かう段階で、トラブルに見舞われる事態となっている。

 Swift Boost Missionと名付けられたこのミッションの契約締結時点で、Katalyst Spaceには打ち上げまでにわずか9か月しか猶予が残されていなかった。しかし同社は設計からペイロードの完全統合試験までを約8か月という驚異的なスピードで終え、7月3日の打ち上げにこぎ着けることに成功した。

そして、打ち上げ後の7月15日には、LINKは宇宙空間での試運転を順調にこなし、太陽電池アレイの展開、電力システムや推進システムの点検もほぼ完了していた。宇宙空間で機体の姿勢制御を行うリアクションホイールのひとつが一時的に動作不良を起こしたが、このときは、地上からソフトウェアの修正を行い、さらに運用方法にわずかな変更を加えるだけで問題は解決したとNASAは報告していた。

ところが、7月18日に発表された経過報告ではより深刻な状況にLINKが直面していることが明らかになった。

解決したと思われた姿勢制御系統が再び不具合を起こし、3つのリアクションホイールのうち2つが動作しなくなり、さらにガス噴射によるスラスターシステムも一部機能不全となったことで、LINKはスピン状態に陥っており、一時は通信も途絶したとのことだ。

ただ、その後は不安定ながらもなんとか通信は維持可能となり、電気推進、ロボット工学、接近・近接運用(PRO)センシング、電力供給などが正常であることが確認されている。

Image : Katalyst Space Technologies

リアクションホイールとは、簡単に言えばモーター駆動のフライホイールのことで、回転数を変えることで角運動量保存の法則により宇宙船の姿勢を制御する装置。3つのリアクションホイールにピッチ、ヨー、ロールの3軸をそれぞれ割り当てて制御することで、空気抵抗も何もない宇宙空間であらゆる方向に姿勢を転換可能にしている。

ただ、このリアクションホイール3つのうち2つを失ってしまうと、宇宙船の姿勢制御能力は著しく低下してしまう。そのため、長期間の運用を想定しているNASAのジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡などは6つのリアクションホイールを搭載し、その冗長性によって、いくつかが故障しても運用を継続可能にしている。

仮に、LINKの姿勢を再び安定させることができたとしても、Swift宇宙望遠鏡とランデブー飛行し、ドッキングして軌道を押し上げるという、ただでさえ難易度の高いミッションをこなす能力はLINKには残っていないかもしれない。

それでも、ただ指をくわえてSwiftが落下していくのを眺めるよりは、NASAは一縷の望みをLINKに賭ける腹づもりであるようだ。

Katalyst SpaceはLinkedInに投稿した最新情報の中で、 LINKの電動推進スラスタを既に作動させてスピン状態の回転速度を落とすことができているとし、「ミッションは引き続き進行中であり、これらの変更によりLINKがSwiftとランデブーできる可能性は十分にあると確信している」と述べている。

  • 具体的には、ミッション遂行のため以下の手順を進めていく予定とのことだ。
  • 現在の宇宙機構成を反映するよう、誘導・航法・制御方式を更新する
  • 更新された制御方式およびFSWについて、エンドツーエンドのシミュレーションおよび地上試験を通じて検証・妥当性確認を行い、更新後の構成におけるサブシステム間の相互作用を徹底的に把握する
  • 更新された制御方式を用いて、Swiftと同じ楕円軌道に投入する
  • Swiftの点検およびその他の接近・近接活動を実施する
  • 宇宙機の状態および安全性を考慮した上で、Swiftの捕捉を試みる

通常の宇宙ミッションなら、十分な機材開発期間やテスト期間を経て、万全の体制を整えて打ち上げられるものだが、Swift宇宙望遠鏡にはもはや時間が残されていない。

最初からハイリスク・ハイリターンなミッションであることがわかっているからか、NASAも「Katalyst Spaceは安定した姿勢を回復し、宇宙船の状態をさらに調査した後、LINKの誘導、航法、制御システムを更新し、宇宙船の新しい構成に対応する予定だ」と冷静に述べている。そして「その後、NASAのチームと緊密に連携し、安全性やLINKの状態に応じて、Swiftへの接近とドッキングに関する計画を改めて評価する」とした。

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