大変だ、変態だ
MetaのAIスマートグラスに対し「変態メガネ」の認識が拡散

MetaのAIスマートグラスにはフレーム部分にカメラが搭載されており、使用者の視点での写真や動画撮影が簡単に行えるようになっている。だが、この機能を悪用して女性を盗撮する事案が報道されるにつれ、AIスマートグラスに対する風当たりは強くなりつつあるようだ。
テクノロジーニュースサイトのEngadgetは、MetaがAIスマートグラスを発表した当初、それを使用して盛んに活用していた5人のインフルエンサー(写真家、映像プロデューサーなどのクリエイターやテクノロジー愛好家)らに、今も同じようにそれを使用しているかを尋ねた。しかし、昨今のAIスマートグラスへの賛否両論を受けて、何人かはせっかく入手した高価なメガネを公共の場で使うことに気兼ねするようになったと述べたという。
BBCが報じたある動画投稿者の行動は、AIスマートグラスの問題が表面化するきっかけになったかもしれない。その投稿者は、MetaのAIスマートグラスを着用して女性に近づいてはナンパする様子を撮影し、いくつもの動画をオンラインに公開していた。しかし、撮影される側の女性らはカメラが動作していることに気づいておらず、ある女性は投稿された動画を見かけた知人から知らされて、初めて撮影されていた事実を知ったという。
しかも、投稿されていた複数の女性を映した動画には、視聴した男性らがまるで品評会かなにかのようなコメントをつけていた。女性は動画の削除を要請したが、この自称インフルエンサー投稿者はのらりくらりと言い訳を述べては要請を無視し、挙げ句の果てには動画を削除することで得られなくなる収益分を女性が支払うなら応じるとまで述べたという。

AIスマートグラスへの懸念はそれだけに留まらない。今年2月にはスウェーデンの新聞Svenska DagbladetとGöteborgs-Postenは2月、MetaのAIスマートグラスで撮影した写真や動画はプライバシーが守られると説明されていたにもかかわらず、実際はMetaが委託したケニアの業者に転送され、人力でAIに学習させるためのラベル付けが行われていることを暴露する記事を出した。
その記事によれば、この業者らは、AIスマートグラスから送られてくる写真や動画データを確認してはラベリングを行っていたという。そしてそのデータのなかには、ユーザーがトイレで用足しをしている様子や、夜の寝室におけるプライベートな時間の様子を包み隠さず映し出しているものもあったとのことだ。この問題が報道されたのち、Metaには集団訴訟が起こされている。
だが、Metaはそんなことに懲りてはいないようで、6月にはAIスマートグラスに顔認識用のプログラムコードを密かに追加していたことが報じられた。悪質なのは、この機能がAIスマートグラスに紐付けられているスマートフォンの生体認証情報を用いて人物を識別するようになっていたことだ。Metaはこのことが報道されてすぐに、顔認識に関する機能は取り除いたと発表した。
世界的な話題となったケンブリッジ・アナリティカ問題でもユーザーデータの扱いで痛い目を見たはずのMeta。だがそれでも、まるでバレなければ何をしても良いとする企業文化がそのDNAには染みついているかのようだ。
ただ、AIスマートグラスに対する反発は拡大しているようで、SNSではAIスマートグラスを「変態メガネ(pervert glasses)」と呼び、それを公共の場で使っている人に対する非難の声も見かけるようになりつつある。
Engadgetが話を聞いたクリエイターのひとりは、「多くの男性とその行動がこの製品を台無しにしてしまった」と述べ、「自分自身も、誰かがこれを着けているのを見かけると快く思わないので、私がこれを着けているのを見ても、やっぱり誰も快くは思わないだろう」と感じているとした。
別のクリエイターは、「あのメガネをかけていると、まるで犯罪者か変質者みたいだというコメントがたくさん寄せられているのを見て、『ああ、もしかしたらあれは良くないのかもしれない』と思った」と述べた。そして「そこまで深く考えたわけではなかったが、顔にカメラを付けるのは適切ではない場面がたくさんある」ことに気づいたと語った。
メガネは本来、視力を補ったり紫外線から目を保護したりするための道具だ。使用者の「視界」に関するQoLを改善するために、日常的に使用される。だがその人の「視界」を記録し外部に送信できるようになったことで、様々な問題が生じるようになった。そして、問題がその製品だけで解決できないのなら、然るべき法整備が必要になり、違反した者には罰則を適用することで、抑止力としなければならないだろう。
先週、米ニューヨーク州では、全裁判所内へのスマートグラスをはじめとするカメラ付きアイウェアの持ち込みを禁止する法律が施行された。たとえ、度付きレンズを備えて日常的に使用する者であってもカメラが搭載されていれば、それを持ち込むことはできないようにした。これは(当然ではあるが)裁判所内はもともと陪審員や証人、弁護士、審理の様子が外部に漏れるのを避けるため全面的に撮影禁止になっているからだ。学校における試験全般や資格試験などの会場でもスマートグラスに対する警戒感は高まりつつある。
カメラを搭載するAIスマートグラスが普及していけば、このような撮影禁止の場面をもっと法的に整備(あるいはカメラを搭載するアイウェア全般を禁止)しなければ、いつどこで誰に無断で撮影されているかわからない世の中になっていくことになるだろう。
なお、批判は高まっているものの、スマートグラス製品は売れていないわけではない。Metaの製品がヒットしたことで、スマートグラスというひとつの商品カテゴリーを実質的に形成し、同様の製品を開発して売り出している企業も複数ある。
マーク・ザッカーバーグCEOは数年前より、スマートグラスがいずれはスマートフォン以上に普及すると確信していると述べていた。ザッカーバーグ氏の予言は、メタバースのその後を考えるとあまり当てにはならないかもしれないが、スマートグラスに関しては今のところ成功の道を歩んでいるようだ。
