ソニーの技術力でライブコンテンツの成長加速へ
ソニーが仕掛けるロケーションベースエンタテインメント、開拓者が語る成長の可能性
ソニーが7月8日から品川本社で開催した「Creative Solution Showcase 2026(CSS 2026)」を、メディアに公開した。今年で3回目の開催となる同イベントは、毎年4月に米国ラスベガスで開催される「NAB Show」で、ソニーが発表するプロフェッショナル向けの放送・映像機器を、国内で初めて見せる機会にもなっている。
それだけではない。CSSはソニーが放送局や映像制作関連の企業、そしてクリエイター向けに展開する様々なビジネスソリューションの内覧会としての役割も果たしている。
今回筆者は、ソニーグループ全体が力を入れる「ロケーションベースエンタテインメント=LBE」の展示に注目した。CSSを主催するソニーマーケティング株式会社 B2Bビジネス本部の中川一浩氏、宇佐美貴之氏に、同社が先駆的に取り組んできたLBEに関わるビジネスの戦略と今後の展望を聞いた。

ソニーマーケティングは「顧客とつくるLBE」を先駆けてきた
一般的にロケーションベースエンターテインメントとは、例えば遊園地のアトラクションのように、ある特定の「場所」に人々が足を運んで楽しむ体験型のエンターテインメントを指す。
ソニーグループでは2024年に米国ラスベガスで開催された「CES 2024」にブースを構え、ロケーションベースエンタテインメントの特設ブースを公開した。筆者も現地で展示を体験した。映画「ゴーストバスターズ」のキャラクターにハイライトしたユニークな展示だった。詳細はリンク先にあるソニーの技術ストーリーを参照してほしい。
ソニーグループとソニーマーケティングのLBEに対するアプローチには違いがあり、立ち上がった経緯も異なっている。
中川氏は、「ソニーグループのLBEは、ソニーがIP(知的財産)を持ち、独自にロケーション(場)を用意したうえで、ビジネスやファンエンゲージメントを創るアプローチを採っています。ソニーマーケティングには、元からBtoBビジネスとして企業向けに展開してきたLBEの豊富な実績があります。私たちの場合は、クライアントがそれぞれに持つIPやベニュー(施設)を活かす際に、ソニーのテクノロジーやコンサルタントを提供するアプローチ」なのだと説く。

ソニーマーケティングでは2018年にBtoBビジネスとして、LBEに特化した組織である「LOCATION VALUE PLANNING」(以下:LV企画室)を立ち上げている。
LV企画室が創立した当時から、スタジアムやアリーナ関連のロケーションにソニーの制作システムを導入するだけでなく、活用のための提案も行ってきた。この事業を率いてきた宇佐美氏は、ソニーグループが公式にLBEという言葉を使い始める前から市場の動きを捉えていたと語る。
「私たちの事業はBtoB向けのソリューションビジネスであり、クライアントのベニューの体験価値を高めることが目的です。私たちが直接オーナーになるのではなく、興行を行っているクライアントに対してソニー独自のソリューションを提供するところが、ソニーグループのLBEとの基本的な考え方の違いです」(宇佐美氏)
多様なソリューションを提供してきた実績がある
日本国内では2017年前後、スポーツ庁と経済産業省が中心となって「スタジアム・アリーナ改革」を進め、スポーツ施設を地域活性化や収益創出の拠点に転換する方針を打ち出した。
同じ流れの中で、スポーツの試合が行われる日程外も、施設に多くの人々が集まり、飲食や商業、観光などが楽しめる「ボールパーク的な施設づくり」の政策もまた後押しされてきた。
こうした変化に対して、ソニーマーケティングが提供する価値はソニーのハードウェアを販売することにとどまらない。LV企画室が取り組んできたことを、宇佐美氏が振り返る。
「例えばシステムカメラやスイッチャーが欲しいというご要望であれば、当然ながら詳細な機能とスペック、価格も含めてご提案できます。しかし、近年クライアントからいただくのはプロダクトの説明だけでなく、ベニューに足を運ぶお客様をどのように楽しませることができるのかを含めて、ソニーからの提案が欲しいという声です。プロダクトはあくまで手段であり、クライアントと一緒に体験価値をつくり、高めることができる組織を目指してLV企画室は始動しました」(宇佐美氏)
特に音楽ライブの領域では、VTuberやアバターがステージに立ち、デジタル空間で歌い踊るパフォーマンスが盛り上がりを見せている。こうした高度な没入体験を実現するには、ハードウェアだけでは不十分だ。
AIをはじめとするソフトウェア、視覚や聴覚に加えて触覚や嗅覚まで刺激する演出など、ソニーグループ全体の知見をどう掛け合わせるか。そのさじ加減こそが体験価値を大きく左右する。

「ソリューションビジネスですので、ソニーミュージックやソニーPCLなど、ソニーグループの様々な部門に遍在するアセット(資産)を最大限に活用して、クライアントの期待に応えます。これまでは案件ベースでの連携でしたが、今年のCSS 2026ではソニーグループ全体のアセットをフルに活用していく姿勢を前面に打ち出しています」(中川氏)
また、2026年2月にソニー本社の中にオープンした、社外クリエイターとの共創拠点映像制作の共創拠点「Digital Media Production Center Japan(DMPC Japan)」も好調だ。中川氏によると、映像制作のプロフェッショナルからソニーのソリューションを実際にここで試したいという要望も多く寄せられているようだ。

ライブエンターテインメントへの回帰が成長を支えている
LV企画室の成果は、ジャパネットグループが手がける長崎スタジアムシティ、総合不動産会社のケン・コーポレーションが開発・所有するKアリーナ横浜の “音楽特化型アリーナ” 、そして福岡PayPayドームの大型LED表示装置「ホークスビジョン」などが代表的な事例として挙げられる。
いずれも映像・音響システムの納入にとどまらず、来場者の体験価値を高めるためにソニーグループの多種多様なアセットを横断的に組み合わせている点に特徴がある。
ソニーグループの決算上は、エンタテインメント・テクノロジー&サービス(ET&S)分野に含まれている。今のところはLBEの成果だけを切り分けて見ることは難しいが、指標として2019年度当初と2025年度の提案件数を比較すると、約3倍程度に増えているという。

ロケーションベースエンターテインメントに対するニーズの拡大と、事業の成長について、中川氏と宇佐美氏はともに確実な手応えを実感しているという。今後の展望について、宇佐美氏は「ライブコンテンツの成長」がさらに加速すると見込みを語る。
「スマートフォンに代表されるデジタルデバイスや、多種多様なコンテンツを定額で楽しめるサブスクリプションサービスが普及したことで、逆にロケーションベースで楽しむライブコンテンツの価値が見直されています。アバターがステージに登場するバーチャルコンサートもまた、大勢の観客が決められた時間に集まり、同じ体験を共有するという意味では、新しいライブエンターテインメントの形であるといえます」(宇佐美氏)
中川氏は、2020年以降に世界を襲ったパンデミックの時期にライブエンターテインメントの価値が改めて認識されたことも、現在の人気の定着につながっているのではないかと語る。インターネット配信技術の進化により、様々なエンターテインメントをリモートで楽しめるようになった。だからこそ同じ場所に集まり、ライブで体感するエンターテインメントの価値がいま再び見直されている。
ソニーマーケティングには「体験」をキーワードに数多くのロケーションベースエンタテインメントを企画し、形にしてきた強みがある。その実績は、ソニーグループ全体で進めるLBEの取り組みを後押しする力にもなっていくのだろうか。今後の展開にも注目したい。
