DMAによるプライバシー保護の懸念

アップル「Siri AI」からEU圏が置き去りにされる理由。幹部が語った“決断”の真相

山本 敦

2026年の世界開発者会議「WWDC」では、アップルが次世代のApple Intelligenceと新しい「Siri AI」を発表して大きな注目を集めた。しかし、次期プラットフォームのiOS 27とiPadOS 27のリリースは、EU圏内のiPhoneおよびiPadユーザーに、これらの新機能が同時期に提供されないことも明らかになった。

米Appleのワールドワイドマーケティング担当シニアバイスプレジデントであるグレッグ・ジョズウィアック氏は、本社Apple Parkに集まった日本人記者によるグループインタビューに応じ、このたびの「決断」の理由を語った。

日本人記者によるグループインタビューに応じた、Appleワールドワイドマーケティング担当シニアバイスプレジデントのグレッグ・ジョズウィアック氏

異例のトーンでDMAを批判

EU市場においてSiri AIの提供が見送られた理由は、欧州委員会(EC)の規制であるデジタル市場法(DMA:Digital Markets Act)の解釈と運用方針が原因だ。

ECは相互運用性と競争の促進という観点から、アップルが自社のSiri AIに与えるのと同じレベルで、OS全体やユーザーデータへのアクセス権限を、次期OSが提供される初日からサードパーティの仮想アシスタントにも同等に付与することを求めている。

ジョズウィアック氏は「Siri AIはこれまでの多大な努力の結実であり、アップルにとって過去最も重要なアップデートのひとつ。すべての機能は設計段階からユーザーのプライバシーを保護するように構築されている」ことを強調した。

さらに続けて「にもかかわらず、 欧州委員会がこの決定に至ったことは非常に不本意」とし、DMAに関する極端な解釈が、ユーザーに代償を払わせる最も顕著な例であると、やや語気を強めながら批判した。

適切な保護措置がないままシステムへのアクセスを解放すれば、いかなるAIシステムであっても、ユーザーの同意なしにメッセージを読み取ったり、個人的な写真やファイルを編集・削除したりする重大な「セキュリティのほころび」が生じる。アップルは数か月に渡ってECと解決に向けた協議を試みたものの、プライバシー保護の懸念は考慮されなかったという。

この決定がEU圏内のiPhone、iPadユーザーにもたらす影響は、単純に新しい機能が使えないということに留まらないだろう。

なぜならば、今回発表されたSiri AIは、デバイス内にあるユーザーの個人的なコンテクスト情報を理解しながら、様々なアプリをまたいで動作する、エージェンティックなAI体験の「基盤」として設計されているからだ。この基盤が機能しないということは、すなわちプラットフォーム全体の体験も、少なからず損なわれることを意味している。

さらに今後のアップデートで追加される新しい機能もまた、このSiri AIと連携するかたちで設計・開発されることになる。今後しばらくの間は、EU市場でiOSとiPadOSに対して「提供できない機能」が雪だるま式に拡大する懸念も浮かび上がった。

優先された「確実性」とユーザー保護

見方を変えるならば、この決定はアップルにとってもビジネス上の不利益を伴うものだ。

同社にとってのライバルがEU圏内でも次世代AI機能を展開する中で、Siri AIが利用できないとなれば、現在も激しい競争環境にあるEU市場においてiPhoneやiPadのプロダクトとしての魅力も低下する。アップル製品の市場シェアにも影響が及ぶだろう。同社もその点は十分に認識している。

それでも提供を見送った背景には、欧州の規制環境における巨大な不確実性がある。過去のApp Storeを巡る対応において、アップルは欧州委員会が定める法律に準拠するための提案を行ってきたものの、欧州委員会の解釈が変遷し、結果的に多額の罰金を科された経緯がある。

WWDC 26の基調講演の中でも、今回の決断を伝える一幕があった

現在のEUのルール下では、安全性がまともに担保されていない状態で新機能を展開し、また後に規制当局との解釈の違いから多額の制裁を受けるリスクは否定できない。このような不確実性を抱えたままで、数千万人に上るとされるEUのiPhone、iPadユーザーをリスクにさらすことの方が、ビジネスとして合理的ではないという判断が働いたと言える。

一方で、アップルは他国の規制当局との関係について異なる見解を示している。特に日本の公正取引委員会(JFTC)など規制当局と積み重ねてきた対話については、双方向に建設的な議論が進められてきた経緯がある。

日本の枠組みでは、相互運用性の確保という目標を定めながらも、ユーザーのプライバシーや子どもの安全を最優先に考慮して対策を講じることが認められている。懸念事項について率直に意見を交わし、双方にとって実用的な妥協点が見出せているという。

イノベーションの促進と同時に、市場競争の公平性やユーザー保護のバランスをどのように図るべきなのか。対話が一方通行になっているEUと、建設的な議論が成立している日本のアプローチの違いは、今後のテクノロジー規制のあり方を考える上で重要な事例になっている。

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