鳥類シックパーク

モアやドードーを甦らせる第一歩? 人工卵殻でヒヨコの孵化に成功

Munenori Taniguchi

Image:Colossal Biosciences

絶滅種の復活を主張することで知られるバイオテクノロジー企業、Colossal Biosciences社は今週、 3Dプリンターで作成した人工卵殻から26羽の健康なヒナを孵化させたと発表した。

自然界において、卵は偉大かつ小さな発明のひとつだ。鳥類で言えば、ハチドリの卵はエンドウマメほどの大きさだが、鳥類最大のダチョウの卵はスイカほどの大きさになる。大小の差こそはあるものの、それらはいずれもまだ単細胞の段階の生命に、この世に生まれ出るまで、自律的に栄養分や酸素を供給し続ける能力を持っている。

その能力を実現している最も重要な構造は、殻だ。Colossal Biosciencesの最高生物学責任者であるアンドリュー・パスク氏は、「これは非常に特殊な極薄膜で、非常に効率的なガス交換を可能にするものだ。卵の殻はまさにそのために驚くほど精巧に設計されている」と述べている。

昨年、絶滅したオオカミの一種ダイアウルフを事実上「絶滅から復活」させて話題になった(物議も醸した)Colossal Biosciencesは今回、完全人工卵から26羽のヒナを孵化させたと発表した。同社はこれまでにも卵の外でひよこを孵化させることに成功してきたが、自然の驚異的な仕組みを人工的に再現するのは難しかった。

英国ロスリン研究所の胚発生学者で、Colossal Biosciencesの鳥類幹細胞に関する科学顧問でもあるマイク・マクグルー氏は、人工卵殻について「これまでは、プラスチックカップやサランラップなど、さまざまな人工容器を使用してきた」ものの「さまざまなシステムを使用しても、孵化率はあまり良くなかった」と述べた。

同社の共同創業者兼CEOであるベン・ラム氏も、「絶滅種復活に向けたあらゆる新しいスケーラブルなシステムは、結局のところ、工学的な課題に包まれた生物学的な課題だ」とした。そして「南島の巨大モアのような種を復活させることは、単に古代のゲノムを再構築するだけではない。まったく新しい孵化システムを構築する必要があった」とした。

一般的な卵の殻は、内部と外気の間で二酸化炭素を排出しながら、酸素を取り込むというガス交換の仕組みを持つ。これは、厚さがわずか0.4mmしかない殻に開いた、最大1万7000もの微細な気孔が実現している。また、卵の中には厚さ20μm(0.02mm)という極めて薄い内膜が2層あり、成長中のヒナを外から侵入する細菌から守るとともに、いう重要な役割を果たしている。ちなみに、人の髪の毛の平均的な太さは約0.08mmと言われている。

Image:Colossal Biosciences

Colossal Biosciencesが今回の実験で開発した人工卵殻は、自然の卵の殻とは大きく異なる。内膜は特許出願中というシリコン薄膜で作られ、殻そのものは、通常の殻の約3分の2ほどの大きさで、上部を開くことが可能な半熟卵のカップのようなチタン製の構造体を使用した。ただ、このチタン殻には、ガス交換を再現するため、数百の六角形の気孔が開けられていた。

Image:Colossal Biosciences

研究者らは、養鶏場から鶏卵を提供して貰い、チタン殻の蓋を開けて卵黄と卵白、小さな胚をひとつひとつ移して蓋をし、孵卵器に入れた。卵はこの時点で受精後約3日だった。

ニワトリの受精卵は、通常なら約3週間で孵化するため、人工卵殻の卵は約18日後には孵化することになる。研究者らは定期的に画像を撮影しながらその日を待った。そして予定日になると、順調に成長した26羽のヒヨコは、殻をくちばしでつつく「Pipping」と呼ばれる動作をはじめ、シリコンの内膜を突き破ってその姿を現した。

言うまでもないことだが、この実験の目的はニワトリのひなをかえすことではない。同社は昨年7月に、すでに絶滅した世界最重量の鳥類「モア」を復活させる意向を発表しており、今回の実験はそのための技術を確立するのが目的だった。ちなみにモアは、高さ約3.6m、体重約227kmにもなる巨大な鳥で、ニュージーランドに生息していたが、空を飛ぶことができず、約600年前に人々に狩り尽くされて絶滅してしまった。モアの絶滅は、それを唯一の餌としていた、やはり巨大な猛禽類であるハーストイーグルの絶滅も招いてしまった。

すでに絶滅したモアを復活させるには、博物館や民間で保存されている剥製などから組織サンプルを取得し、ゲノムを解読する必要がある。そして、モアの近隣種であるエミューなどから胚から原始生殖細胞(卵子や精子へと発達する細胞)を抽出し、モアの主要な特徴に合致するようゲノム編集を行う。編集済みの細胞を、近隣種の卵内の胚に移植すると、生まれてきた近隣種は改変されたゲノムによって雄はモアに似通った遺伝子を持つ精子を精製するようになり、雌はモアに通った遺伝子の卵を生む。その卵をかえすことで、モア(似通った鳥)が誕生するという。

ただ理屈はそれで合っているが、本来のモアの卵はニワトリの卵の80倍、エミューの卵の8倍もの大きさであり、エミューを代理母としても胚が成長し続ければ代理母が産んだ卵の中でひなが成長しすぎて収まりきらなくなる。そこで、実験で使ったチタン殻を十分な大きさで作っておくことで、そちらに卵の中身を移して、孵化させるというのが最終的な計画だ。

今回はニワトリの卵で雛をかえすことに成功したが、Colossal Biosciencesはモアに近い種を孵化させる時期は、実際には2030年代半ばぐらいになると考えていると述べている。

同社はそれまでの間に、今回のニワトリから、徐々に大きな鳥類へと実験を重ねて行くことを計画している。

関連キーワード: