【連載】山本敦の発見!TECH最前線 第10回
「Googleのスマートグラス」は何が違うか? GeminiとAndroidが変えるウェアラブルの未来
Googleが米カリフォルニア州マウンテンビューの本社で開催した開発者会議「Google I/O 2026」では、Geminiを中心とするAI関連の発表が相次いだ。その中でも一般に話題を呼んだ内容が、Android XRをベースに最新のGeminiを搭載するスマートグラスだろう。
筆者はGoogle I/Oを現地で取材し、Googleが開発中のスマートグラスの試作機を体験した。そこで見えてきたのは、AIというフィルターを通して、目の前の現実世界をより深く理解したり、これまでとは違う目線で見るための新しいウェアラブルデバイスの姿だった。

GeminiとAndroid XRを載せたオーディオグラスが今秋誕生
スマートグラスは昨今また注目を集めている。Googleは現在、アメリカの半導体メーカーであるクアルコムと一緒にAndroid XRプラットフォームを開発している。スマートグラスのハードウェアについては、初期段階からサムスン電子と組んで、ここまでの形に整えてきた。
今回のGoogle I/Oでは、本体にディスプレイを搭載する「ディスプレイグラス」と、これを持たない「オーディオグラス」を発表した。
2つのタイプのスマートグラスは、本体にカメラとマイク、スピーカーを搭載する点は共通している。そして、GoogleにはGeminiという強力なAIと、Android XRの母体となるAndroid OSという巨大なエコシステムがある。それぞれがGoogleの新しい世代のスマートグラスに採用される。
Android XRを搭載する製品には、サムスンが2025年秋に商品化したヘッドセットタイプの「Galaxy XR」がある。日本は未発売の商品だ。
Googleは2024年12月にAndroid XRを発表した時点で、同OSがヘッドセットだけでなく、将来的にスマートグラスも支える構想を示していた。

2025年のGoogle I/Oでは、Android XRを搭載するスマートグラスの体験デモを披露している。2026年のイベントではGentle MonsterやWarby Parkerといったアイウェアブランドが、秋に「オーディオグラス」の新製品を発売することが発表された。
サムスンも独自の製品を発売するという。ステージでは「インテリジェント・アイウェア」という呼称が使われていたが、本稿ではより直感的にわかるように「スマートグラス」と呼ぶことにする。
Googleのスマートグラスは「現実世界とAIをつなぐ」
先述の通り、Googleのスマートグラスに共通するのはAndroid XRをベースに、Gemini、マイク、カメラ、スピーカーを備えることだ。
筆者はGoogle I/Oの会場で、ディスプレイグラスの試作機を体験した。この試作機では、リアルタイム翻訳の結果や通知などを視界に重ねて見ることができる。
右側のレンズにだけ、小型のディスプレイを搭載している。表示によって視界が遮られる感覚はなく、着けたまま安全に歩き回ることができた。一方、オーディオグラスは画面表示を持たないため、Geminiからの応答を耳で聞く使い方が中心になる。

この違いは使い勝手の面で大きな差として表れるのだろうか。とはいえ、Googleが目指している体験の本質はディスプレイの有無に左右されるものではない。
本体に内蔵するカメラで、装着しているユーザーの視界にある情報を「見る」ことができて、マイクでユーザーの声を「聞き」、Geminiがコンテクストを理解してユーザーを支援することが、使い方の基本スタイルとして設計されている。つまり、Googleのスマートグラスは「現実世界とAIをつなぐデバイス」としての役割を期待されているのだ。
従来のスマートグラスは映像を見たり、ゲームを楽しんだり、あるいは音楽を聴くためのウェアラブルデバイスとして語られることが多かった。もちろん、Googleのスマートグラスでも音楽再生や写真撮影、ハンズフリー通話ができる。
しかし、それらはあくまで機能の一部にすぎない。これから重要になるのは、人間が本来持つ「見る」「聞く」といった感覚的な能力を、頭部に装着するウェアラブルデバイスとGeminiの組み合わせによって、どこまで拡張できるかという点にある。筆者はそこに次世代スマートグラスの本質があると考えている。
Geminiがあるからできること
筆者がGoogle I/Oの会場で体験した、Googleの試作によるディスプレイ付きスマートグラスについて、もう少し振り返ってみたい。
見た目にはやや太めのフレームを採用した眼鏡に近い。実際に装着してみても、重さや掛け心地に大きな違和感はなかった。ディスプレイ付きレンズは視度補正にも対応する。
これはあくまで試作機だが、少なくとも「未来の実験装置」というよりも、製品化を見据えた段階にデザインも近づいている印象を受けた。
スマートフォンとの接続はBluetoothで行い、右側テンプル(つる)を長押しするとGeminiが起動する。あとは声でGeminiに話しかけて操作できる。
内蔵するマイクは常時オンのまま動く。Geminiを起動した後は一定時間、音声操作が待機状態になり、カメラを必要とする操作にも素速く応答できる。スマホでGemini Liveを立ち上げて、操作する感覚に近い。
デモでは本体のカメラを現実世界のオブジェクトに向けて「見ながら」、Geminiに「これは何?」と話しかけて答えを聞く体験を何パターンか行った。
エリック・クラプトンの名前が書かれたポスターを見ながら「このミュージシャンの楽曲を再生して」と頼むと、音楽再生につながる。内蔵するスピーカーの音質も悪くない。側に立っていたスタッフに音もれの有無を確認したところ、全然聞こえないレベルに抑えられていると話していた。

音声でカメラを起動して写真を撮り、背景を任意の生成画像に差し替えるデモも体験した。例えば撮影した写真に対して「背景を東京風にして」と話しかけると、Geminiが生成AIを使って画像を加工し、結果をグラス内のディスプレイに反映する。完成した画像はスマートフォン側にも共有できる。
リアルタイム翻訳のデモも、その価値がよくわかる内容だった。英語、韓国語、スペイン語などで話される内容を、リアルタイムに日本語へ翻訳してディスプレイに表示する。レスポンスは上々だ。旅行先で看板や会話を理解したり、外国語での会話を補助したりする用途はスマートグラスとの相性が良いと思う。

筆者はGoogleのスマートグラスを体験して「AIが理解する世界」と人間との接点が生まれて、広がる実感を得た。リアルタイム翻訳は最もわかりやすい好例のひとつだと思う。オーディオグラスは翻訳を耳で聞く使い方になるが、ディスプレイグラスは目でも確認できるため、理解はさらに深まりそうだ。

もちろん、製品化に向けて改善すべき課題もあると思う。バッテリーの持ち、発熱、長時間装着時の快適さの維持、フレームデザイン、そしてデバイスの価格をどの程度に落とし込めるのかも大事なポイントだ。
何より、カメラ付きのスマートグラスを日常で使うことへの社会的な受け止め方だ。特に日本では、街中や人前でカメラを向ける行為に対して敏感な人も少なくない。便利であることと、周囲に違和感を与えないこと。この両立は、スマートグラスを普及させるために解決すべき大きなテーマになる。
それでも、筆者は今回の体験からかなり前向きな手応えを得た。スマートグラスは、スマートフォンやスマートウォッチとは違って、人間の感覚が集中する「頭」に身に着けるデバイスである。だからこそAIとの相性が良い。視覚、聴覚、音声、位置情報、さらに行動文脈が重なった時に、スマートグラスは今までにないインテリジェントなコンパニオンデバイスになり得る。
Androidのエコシステムが差を付ける
AI搭載スマートグラスのライバルとして、まず名前が挙がるのはMetaのRay-Ban Metaシリーズだ。Metaは2023年秋に北米から先行する形で、Ray-Banブランドのスマートグラスを商品として展開している。
内蔵するカメラで写真や動画を撮影でき、音楽再生やハンズフリー通話にも対応する。さらにMeta AIとの連携により、ユーザーが見ているものについて質問する体験も強化されている。
Metaの強みは明確だ。第1には既に商品として市場に出し、ユーザーのフィードバックに基づくノウハウを蓄積していることがある。第2に、本体を共同開発する仏・伊の企業、EssilorLuxottica(エシロールルックスオティカ)が持つアイウェアブランドのデザインや装着感、視力補正のノウハウが活かせることも大きい。
スマートグラスは、スマホ以上に「身に着けたくなるデザインと心地よさ」を実現することが重要になるデバイスだ。ここでRay-BanやOakleyとコラボできる強みが活きてくる。

一方で、Googleの優位性はAIとプラットフォームにある。今回のGoogle I/Oでは、Gemini SparkというエージェンティックAIもローンチした。
Gemini Sparkは、ユーザーの指示のもとで、より複雑なタスクをこなせるパーソナルAIエージェントだ。例えば、ユーザーが「チケットを予約して」「近くの店でいつものコーヒーを注文して」「さっき見た場所まで案内して」と頼む。Gemini Sparkが検索、地図、決済、アプリ連携をまたいで作業を支援する。
スマホやPCでは画面を見ながら細かい操作もできるが、スマートグラスでは基本的にハンズフリーによる操作が中心になる。だからこそ、ユーザーが何度も画面をタップしなくても行動文脈を理解しながら、先回りして答えを導いてくれるエージェンティックAIとの相性も良さそうだ。いずれはスマートグラスでもGemini Sparkが使えるようになるのか、今後のアナウンスを待ちたい。
さらに、AndroidとAndroid XRというプラットフォームの存在も大きい。Androidには世界中の開発者、アプリ、デバイスメーカーが関わっている。Android系OSとGeminiを介してスマートウォッチ、テレビ、オートモーティブなどのデバイスともつながることができれば、スマートグラスがAndroidエコシステムのインターフェースになり、単独のデバイスを超えた体験が生み出せるだろう。

あとはハードウェアの仕上げ。ライバルはアップルか
今回のGoogle I/Oで見えたスマートグラスの価値は、現実世界をAIというフィルターを通して見直すことにあると筆者は考える。
スマホは、私たちをデバイスの画面の中の情報に誘導してきた。検索する時も、地図を見る時も、翻訳する時もいったん手元に端末を取り出し、画面に目を向ける必要がある。
対して、Googleのスマートグラスはユーザーが顔を上げたまま、目の前の世界に情報を重ねる。目の前にあるものを「AIに見せる」だけで、植物の名前や書籍の内容を調べたり、外国語を理解できる。道に迷った時にはマップを起動して、視界の中で方向を確認できる。音楽や写真、メッセージ、カレンダーといったコンテンツも手を使わずに呼び出せる。
将来的にはセンシング技術との融合により、スマートグラスの用途はヘルスケアやワークアウトにも広がる可能性がありそうだ。人間の視覚や聴覚を補助し、集中力や安全確認を支援したり、身体の状態や周囲の環境を読み取ることができれば、スマートグラスは「人の能力を拡張するデバイス」に進化を進めることができる。

GoogleはGeminiとAndroidという強力な土台を持っているので、ことにAI搭載スマートグラスの領域では、ハードウェアの面でもライバルに差を付けられる可能性が十分にある。
気になるのはアップルの動きだ。もしアップルが今後スマートグラスに本格参入するなら、Apple Watchを10年以上展開してきたノウハウを活かして、ヘルスケアやワークアウトのデータをアイウェアタイプのデバイスにも活かせそうだ。ハードウェアの完成度と装着感にも、アップルらしいこだわりを反映した魅力的なスマートグラスに期待したい。
Google I/O 2026で体験したスマートグラスはまだ完成品ではない。しかし、Googleが秋に商品を発売すれば、再びスマートグラスが脚光を浴びそうな手応えは十分に感じられた。
