そこ大気があるとは誰も思いませんでした

海王星以遠で初、太陽系外縁天体に大気の層を発見。極寒の地になぜ大気が?

Munenori Taniguchi

Image:NAOJ

国立天文台の有松亘講師兼石垣島天文台室長率いる研究チームは今年4月、太陽系の外縁近くにある小さな天体「2002 XV93」に、大気を発見したと発表した。この研究論文は5月4日に科学雑誌Nature Astoronomyに掲載された。

2002 XV93は、太陽系の外縁部、地球から約55億km(地球~太陽間の約33倍)のエッジワース・カイパーベルトと呼ばれる領域に存在する。直径がわずか500kmほど(月の約7分の1)しかない非常に小さな天体だ。

太陽から非常に遠いこの領域では、星の地表はマイナス220℃以下という極寒の地となる。さらに、小さな天体は一般にその表面の変化が乏しく、また重力も非常に弱いため、この星が大気を地表に留めておけるとは通常なら考えられない。

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2002 XV93は「冥王星族(プルティーノ)」のひとつに数えられる。冥王星族は、海王星の軌道と共鳴する軌道を持つ。2002 XV93の偏心した公転軌道や246日という公転周期も、冥王星(公転周期247.7日)と非常に似通っている。

これまでに、冥王星族に含まれる3つの準惑星エリス、マケマケ、ハウメアと、準惑星候補であるクワオアー(直径1000km前後)に対して大気を調べる観測が行われたが、いずれも明確な大気はないとされている。

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赤道面の直径が約2370kmある冥王星は、1985年に主に窒素で構成され、微量のメタンや一酸化炭素を含む大気の存在が確認された。それらのガスは、太陽から遠い位置にあるときは凝固し、地表に降り積もった状態になっている。

しかし、太陽に最接近する近日点が近づくにつれ、主に凍った窒素が昇華して気体になり、地表に希薄な大気を構成する。冥王星の気圧は、だいたい、1Pa(パスカル)しかない。地球上の気圧はだいたい1013hPa(ヘクトパスカル、1hPa = 100Pa)だと考えるとその薄さがよくわかる。

一方、冥王星よりも小さな太陽系外縁天体のほとんどでは、重力が弱いために大気成分が宇宙空間へ逃げていく大気散逸と呼ばれる現象が生じる。つまり太陽系外縁天体のほとんどは、何かのきっかけで一時的に大気を持つことはあっても、急速にそれが失われてしまうと考えられていた。

国立天文台、JAXA、複数の大学の研究者ら、さらにアマチュア天文家を含む研究チームはぎょしゃ座にある約15等級の明るさをもつ恒星の前を2002 XV93が通過する、恒星掩蔽(こうせいえんぺい:恒星食とも言う)現象が2024年1月10日に起きる可能性を独自に予測し、日本国内数か所の天文台で連携してそれを観測した。

使用したのは京都市にある口径20cmの小型観測システムSoCoSoCo-PONCOTS(ソコソコポンコツ)、長野県木曽郡にある東京大学の木曽シュミット望遠鏡のTomo-e Gozen(トモエゴゼン)カメラ、そして福島県のアマチュア天文家が運用する口径25cmの望遠鏡だ。

観測する恒星の手前を別の天体が横切るとき、恒星の光は手前の天体に遮られて暗くなる。このとき、もし光を遮る天体に大気がなければ、その明るさの変化は瞬時に起こる。

しかし、前を横切る天体に大気の層があれば、その大気によって恒星の光が屈折し、ごく短時間ではあるものの減光現象は徐々に起こり、また徐々に元の明るさに戻る。

2002 XV93による減光は、まさに大気が存在する天体が引き起こすのと同様の現象だった。研究チームは「恒星の光が約1.5 秒かけてなだらかに減光・回復する様子が確認された」と説明している。

研究者らは、この恒星の減光と回復の様子を分析した結果、2002 XV93の表面気圧が100~200nbarであることがわかった。これまでの調査では、2002 XV93よりも大きな太陽系外縁天体でも、保持可能な大気圧の上限は1~100nbar(0.000001~0.0001hPa)と推測されていたため、2002 XV93でこれほどの大気が発見されたのは驚くべきことだった。

なお、光の屈折率プロファイルからは、大気が中心から最大270kmの範囲におよぶことが示唆され、冥王星族の温度構造を仮定した大気モデルを用いた解析では、大気の主成分は純メタン、窒素あるいは一酸化炭素のいずれでも減光現象を再現可能であることがわかったという。

ちなみに、2024年に発表されたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による観測結果では、2002 XV93の表面に凍った二酸化炭素の存在が検出されていた。だが、メタンや窒素、一酸化炭素などは発見されず、当時はそれらがかつて存在したとしても、すでに宇宙空間へ散逸してしまったと考えられていた。

さて、大気が存在することが明確になったところで湧いてくるのは、この大気がどこから現れたのかという疑問だ。これには2つの可能性が考えられる。

まず1つめは、低音火山のような現象によって、凍った状態または液体のガスが地中から表面に噴出した可能性。もう1つは、比較的最近に大きさ100mほどの小天体が2002 XV93に衝突し、その際に彗星がガスを放出して一時的な大気を形成した可能性だ。

もし、今後数年間で単調に大気が減少していくのが確認されれば、大気は他の天体の衝突によって一時的に供給された可能性が高まる。もし、大気圧が単調に低下せず、また公転によって生じる季節的な変化が見られるようなら、2002 XV93内部からのガス供給があると考える根拠になるだろう。

いずれの場合であっても、太陽系外縁天体が「活動性や変化のほとんどない世界」という従来の常識を大きく覆すことに変わりはない。なお、2002 XV93サイズの天体における大気は、何らかのガス供給がなければ、長くても1000年程度で散逸してしまうと考えられる。

研究者チームは原因を特定するためには「今後の継続的な観測が非常に重要だ」と述べ、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による分光観測が「今回発見された大気の起源とその素性に迫るうえで決定的な役割を果たすと期待される」としている。

ちなみに、本研究を率いる有松氏が室長を務めている石垣島天文台は「観測天文学のフロンティアが必ずしも大規模望遠鏡や宇宙望遠鏡だけによって切り開かれるわけではなく、機動性の高い中小口径望遠鏡を全国・世界の観測網の中で戦略的に運用することにより、太陽系の果てで起こる希少な現象を世界に先駆けて捉えられることを実証した」と述べている。

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