AIが人を使うカフェです

生成AIが運営するカフェ、スウェーデンで営業中。ただし業績はまだ安定せず

Munenori Taniguchi

Image:Andon Labs

米国のスタートアップ企業Andon Labsは、スウェーデン・ストックホルムにAIエージェントが運営する「Andon Café」を開き、AIがどのようにして人を雇用し、ビジネスを運営するかを確認する実験を行っている。

このカフェは、人間のバリスタがコーヒーを淹れて客に出すところは普通のカフェと同じである。だが、スタッフの採用から在庫管理に至るまで、事業のほぼすべての側面をになうマネージャーの役割を、「Mona」と名付けられたGoogle Gemini搭載のAIエージェントが行っている。なお、Monaからの指示はSlackを通じて従業員に出されるようになっている。

この店を訪れる客の多くは、人間の従業員がAIの下で働いていることに興味を持ってやってくる。開業から1か月ほどが過ぎた時点で、売り上げは5700ドルほどにとどまり、当初あった2万1000ドルの資金は残り5000ドルほどに目減りしてしまっている。

しかし、出費の大部分は当初の高額な初期費用のせいでもある。AIエージェントの采配がこなれていけば、将来的には収支が均衡して利益が出るかもしれないと、実験チームは期待している。

ただし、カフェの業績次第では、AIが労働力に与える影響という、より大きな問題が浮上する可能性もある。Andon Labsの技術スタッフであるハンナ・ピーターソン氏は「AIは将来、社会の大きな部分を占めることになる。だからこそ、AIが人を雇用し、ビジネスを運営する場合、どのような倫理的な問題が生じるのかを確認したい」と述べている。

実験開始当初にチームは、カフェの黒字運営、親しみやすく気さくな接客態度、運営の詳細を自ら把握するよう努めるが必要なら新しいツールを要求することを指示したという。Monaは、基本的な指示を受けるとすぐに作業に取り掛かり、具体的にどうやったのかはわからないが、電気やインターネット回線といったインフラ契約を結び、食品取扱許可や屋外席設置の許可を取得した。さらに、ベーカリー商品を揃えるために卸業者との間で法人アカウントを開設した。

しかし、日々の運営におけるビジネスセンスという点で、Monaには欠けているところもいくつか露呈した。たとえば、ある日はパンの注文数量が多すぎ、ある日は発注が遅れて従業員がメニューの調整をしなければならなかった。

また、必要な物資を揃える際に、Monaは必要な数量を誤ることもあった。具体的には、ゴム手袋3000枚、救急箱4つ、紙ナプキン6000枚と、どれも過剰な数量を発注してしまったという。また、なぜかメニューに乗っている料理には一切使われていないトマトの缶詰まで注文してしまうミスをやらかした。

Image:Andon Labs

実験チームは、こうしたポカミスはAIの「コンテキストウィンドウの制限」のせいではないかとみている。

コンテキストウィンドウとは、AIが一度に処理し記憶しておける情報量の上限を示す言葉だ。一般的にAIモデルは処理すべき情報量がコンテキストウィンドウの上限に達すると、以後は古い情報から上書きしてしまう。

そのため、「過去の注文に関する記憶がAIのコンテキストウィンドウから外れると、Monaは過去の注文をどう処理したかを完全に忘れてしまう」のだ。

現在のところ、AIエージェントのカフェ運営手腕をどう評価するかはまだ判断が難しい。カフェを立ち上げるという目標に対しては、様々な準備項目をこなして印象的な作業を行ったが、不要な備品を大量に購入して予算を無駄遣いしてしまったことは、マネージャーとして明らかに減点ポイントだった。

とはいえ、この実験においても、やはり将来的にAIに人間が職を奪われる可能性を否定することはできない。ただ、Andon CaféのバリスタたちはAIをそれほど警戒してはいないようだ。

バリスタの1人、カジエタン・グジェルチャク氏は、「労働者たちはほぼ全員、安全だ」と述べた。なぜなら(少なくともこの実験でわかるのは)「雇用を心配すべきは、中間管理職や経営陣のほう」だからだ。

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