【連載】山本敦の発見!TECH最前線 第8回

インターホンの再発明。Ring創業者シミノフ氏が語る「日本限定モデルを開発した理由」

山本 敦

Amazon Ringの創業者兼チーフイノベーター、ジェイミー・シミノフ氏にインタビューした

アマゾンのホームセキュリティブランド「Ring(リング)」の創設者であるジェイミー・シミノフ氏は、自らを「インベンター=発明家」と称している。彼がRingブランドで初めての試みとして、特定の国や地域のユーザーのために最適化したプロダクトを日本に投入する。4月22日から出荷を開始する「Ring 防犯ドアホン プロ」だ。

日本限定発売モデルが企画開発された背景と、新製品の独自性についてシミノフ氏に単独インタビューを行った。

創業者が原点に立ち返って開発した「日本限定モデル」

Ringは2013年の創業以来、米国をはじめ世界各国・地域で事業を展開してきた。2018年にはアマゾン傘下に入り、2022年にはドアベルやセキュリティカメラなどの製品が日本市場にも投入されている。

これまでAmazon Ringのデバイス、サービスは世界共通の仕様としてきた。一方で、シミノフ氏は長く日本市場の独自性にも注目してきたという。

「日本では様々な一般住居やオフィスなどの建物にも、音声や映像による通話が行えるインターホンが普及しています。設置される場所も玄関だけでなく、一般家庭の場合は門柱や外壁など様々です。一方で、Ringがこれまでに提供してきたグローバルモデルでは、日本の生活様式に完璧にフィットしているとは言えない状況でした」

シミノフ氏が日本専用モデルの着想を得たのは、家族旅行で日本を訪れた際のことだった。街を歩きながら古いインターホンを観察し、それが日本の住まいのニーズに応えきれていないと感じたという。

「私は発明家として、インターホンというデバイスの本質を改めて見つめ直す必要があると考えました。もし現代の日本の住宅に向けてゼロから製品を設計するとしたら、何が求められるのか。その問いを徹底的に掘り下げ、ハードウェアからソフトウェアに至るまで、あらゆる要素を日本向けに最適化した『Ring 防犯ドアホン プロ』を開発しました」

日本を旅した時に、新築から歴史のある家屋まで、広くインターホンが普及していることにシミノフ氏は注目したという。アメリカでは映像や音声によるコミュニケーションを持つインターホンの普及が日本ほどに進んでおらず、チャイムがいまだに主流なのだという

日本の住環境に最適化された設計思想

日本向けの限定モデルを実現するまでに、乗り越えるべき技術的なハードルも少なくなかった。

日本の住宅やオフィスビルでは、集合住宅を中心に鉄筋コンクリート構造が多く見られ、Wi-Fiの電波が減衰しやすい環境にある。一方、米国では戸建て住宅を中心に木造建築が主流であり、電波が比較的届きやすい傾向がある。また日本では無線通信に関する技術基準が定められており、「技適」制度のもとで海外モデルと同等の出力設定がそのまま利用できない場合もある。

Ringがグローバルモデルとして展開するドアホンは、玄関等に設置するドアベル本体と、来客通知を屋内で受けるためのデバイス(インターホン親機)、そして映像や音声をモニタリングするためのEchoシリーズのスマートディスプレイ、またはスマホやタブレットをWi-Fiによる無線通信でつなぐ使い方を基本としている。実際の体感差として、日本の住環境ではコンクリートによる “ぶ厚い壁” に電波が遮られてしまうことから、屋外への無線電波の到達が難しく、不便に感じられるケースが少なくなかった。

モニターユーザー宅に設置された「Ring 防犯ドアホン プロ」

「取り付けには電気工事士の資格が必要になりますが、『Ring 防犯ドアホン プロ』は既存の配線をやり直す手間を省きつつ、現在お使いのインターホンを置き換えて、すぐに使えるように設計されています。住宅の美観を損なわないタイムレスなデザインを目指しました。私たちはホームセキュリティデバイスが威圧感を与えることなく、日々の暮らしに溶け込むことを重視しています」

なお日本も、エントランスに共用オートロックを備えるマンションのような集合住宅など「Ring 防犯ドアホン プロ」が利用できない環境がある。基本的には戸建て住宅での利用が推奨されている。

玄関のドアホンが操作されると、ユーザーのスマートフォンアプリにも通知が届く。屋内設置のデバイスとスマホ、Echo ShowシリーズはWi-Fiでつながっている

AIと4Kカメラがもたらした防犯ドアホンの進化

「Ring 防犯ドアホン プロ」は、屋外に設置するカメラ付きドアベル本体と、屋内設置デバイスとの間を有線ケーブルで接続する。

既存のインターホン設備のケーブルをそのまま流用して、100Vの電源に接続した屋内設置デバイスから、屋外のデバイスを給電する。また、最大830万画素の4K高画質ビデオと音声を、独自の方式により圧縮して伝送する「ネットワーク通信機能」も同じ環境で実現している。

日本国内に広く普及するインターホン設備のケーブル(2線タイプ)を経由して、ドアホン間の通信と電源の供給を行う

商品の基本パッケージは、ドアベル本体と屋内設置デバイスの組み合わせとして展開する。価格は税込54,900円。カメラ映像はモバイル版のRingアプリを入れたスマホやタブレットから確認できるほか、Amazon Echo ShowシリーズのスマートディスプレイにAmazon Ringスキルを導入した環境も対応する。スマートディスプレイのエントリーモデル「Echo Show 5」をバンドリングしたパッケージ展開も企画された。

「Ring 防犯ドアホン プロ」の最大の特徴は、4Kカメラの採用と、それによって強化されたAI機能だ。シミノフ氏は新しいドアベル製品が搭載するAIを「脳」に例え、カメラをその「目」であると説明する。

「AIという『脳』はその『目』であるカメラの性能に左右されます。ピクセル数が多ければ多いほど、AIは状況をより正確に理解できるようになります。4Kを採用したのは家族や知人を識別する『顔なじみ認知機能(Familiar Faces)』などにおいて、より高い精度を追求するためです。緻密な映像が記録できることから、スマートフォンに表示されるカメラ映像の画面をピンチインズーム表示にしても、遠くの場所の細部まで鮮明に確認できます」

「顔なじみ認知機能」は、フルHD(2K以上)のカメラを搭載する既存のRingデバイスにも展開される。例えば「Ring 防犯ドアホン プロ」の場合、カメラが検知した人物の顔を識別して、家族やご近所さま、よく訪れる運送会社の配達員などをユーザーが任意に登録できる。デバイスが頻繁に記録した顔を、ユーザーがアプリから名前を付けて登録する仕組みだ。

デバイスの4Kカメラが高精細な映像を伝送・記録する

Ring Homeサブスクリプションとして提供されるプランから、最上位の「プレミアム」(月額2,380円)に登録すると「顔なじみ認知機能」がベータ版として付いてくる。なおプレミアムプランには24時間連続録画や、録画内容をVLM(視覚言語モデル)により解析・検索して、膨大なデータの中から予期せぬ来訪者の記録を映像で確認したり、便利なAI機能が充実する。

「Ring 防犯ドアホン プロ」には購入直後から、月額350円で提供される「ベーシック」プランを30日間無料で試せるトライアルサービスが付属している。トライアル期間の終了後、有料サービスは不要ということであれば無料のままでも使える。「インターホン」「モーションイベント記録」「モバイルアプリの機能」「Echo Showシリーズとの連携」が無料のサービスに含まれる。

いったん有料サービスを解約した後も、例えば長期間の旅行等で自宅を不在にすることがあれば、1か月間単位で有料プランの「出入りを繰り返す」ことも可能だ。

拡大するRingのエコシステムと今後の展望

スマートホームの標準規格「Matter」への対応や、今後のサードパーティのデバイスやサービスとの連携についても、シミノフ氏は前向きな姿勢を語った。さらに、米国では「Ring App Store」という、外部開発者向けのプラットフォームもローンチした。

「Ring App Storeを通じて、例えば高齢者の見守りに特化した解析アプリなど、特定のニーズに応えるサービスをサードパーティのデベロッパーがつくり、ストアから提供できるようになります。米国から先行して始まったこのプラットフォームを今後も発展させたいと考えています」

全国の住宅メーカーが手がける新築住宅への採用も決まった。住宅設備ディストリビューターとの関係も深めていく

シミノフ氏は、日本の住宅の多くに導入されているカメラ付きインターホンには、今後もネットワークやAIのテクノロジーと結び付きながら「大きく発展する伸びしろがある」と期待を寄せている。

「『Ring 防犯ドアホン プロ』は、ユーザーの皆様に安心・安全な暮らしを実感していただけるデバイスです。インターホンをクラウドやスマートデバイスに接続することによって、今後さらに便利なセキュリティサービスが提供できるようになると考えています」

米国では、近隣のAmazon Ringデバイスユーザーによるネットワークを活用し、迷子の犬を探すユニークなAI機能も提供されている。日本においても限定モデルの発売を契機に、ユーザーの生活や文化に寄り添ったAmazon Ringならではの取り組みが、今後さらに広がっていくことを楽しみにしたい。

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