【連載】山本敦の発見!TECH最前線 第4回
アイドル 22/7とソニーのロボットが共演! キャラクターの「制約」を解く“最先端エンタメ”の舞台裏
2月23日に東京・ギャラクシティ西新井文化ホールで、ソニーのエンターテインメント向け群ロボットシステム「groovots(グルーボッツ)」と、アイドルグループ「22/7(ナナブンノニジュウニ/愛称 ナナニジ)」が共演する音楽ライブイベント「ナナニジライブ in ジャパンフェスタ」が開催された。
今回のライブを企画したソニー・ミュージックレーベルズの小山裕誠氏と、ソニーグループでグルーボッツの開発を担うソフトウェア担当の赤沼領大氏、ハードウェア担当の中野晶氏に会場で話を聞いた。さらにナナニジの麻丘真央さんと相川奈央さんにも、グルーボッツと一緒にステージを作り上げた手応えを語ってもらった。

リアルとバーチャルのアイドルがステージで初共演
このライブは、グルーボッツの大型モデルが映し出すデジタルキャラクターと、実在するアーティストと同じステージに立つ初めての機会となった。
企画の発端は、2025年末にソニーグループが開催した技術交流イベント「Sony Technology Exchange Fair(STEF)2025」に小山氏が参加したことだった。イベントに出展されていた、軽やかに動き回るグルーボッツのデモンストレーションを体験した小山氏は、「アイドルとグルーボッツが共演すれば、これまでにないエンターテインメントが生まれる」という手応えを直感的に得たという。
小山氏はその場でソニーグループの担当者に声をかけ、アイドルグループの22/7とグルーボッツによるコラボレーションを打診した。

グルーボッツは舞台装置に動きを与えるため、ソニーが積み上げてきたロボティクスやセンシングに関わる様々な先端テクノロジーを乗せて開発した最新のエンターテインメント向けロボットだ。
Wi-Fiによる無線通信でつながるグルーボッツを、専用のソフトウェアである “スポッター” により緻密に制御する。今回のライブでは大型モデル1台が使われたが、実際には複数台のグルーボッツによる協調動作も可能だ。詳細については筆者が昨年に取材したSTEF 2025のレポートを合わせて参照してほしい。
22/7(以下 ナナニジ)は総合プロデューサーに秋元康氏を迎え、ソニーミュージックとアニプレックスの3者により立ち上げたアイドルプロジェクトだ。日本を代表する有名クリエイターがデザインしたキャラクターを演じる、声優アイドルをオーディションから募るかたちで2016年に結成された。今回の「ナナニジライブ in ジャパンフェスタ」では7人のメンバーがステージに立った。
7人にはそれぞれに “リアルのアイドル” と “キャラクターのCV=声優” として2つの顔がある。大型のグルーボッツは自律移動する「台車=ベース」の上に約2メートル四方のLEDモニターを搭載している。グルーボッツにナナニジのキャラクターを映し出し、客席に近い舞台面の側でナナニジのメンバーがパフォーマンスを繰り広げるスタイルで、初めての「共演」を実現した。

小山氏は、今回の共演にはもうひとつの大事な意味があると語る。
「ステージに立ったナナニジの7人のメンバーそれぞれに、待望のキャラクターソングが完成した絶好のタイミングでした。この絶好の機会にメンバーの皆とキャラクターの共演が、リアルの舞台上で実現したことを心から嬉しく思います」
高い没入感を実現した緻密なエンジニアリング
今回のステージを実現するうえで、グルーボッツの開発陣が最も注力したのは同期の精度を高めることだった。アーティストの歌唱やダンスのテンポに合わせて、ロボットの移動、およびディスプレイに表示されるキャラクターの映像をスムーズに同期させる必要があるからだ。
ソフトウェアの開発を担当した赤沼氏が制作の過程を振り返った。
「ライブステージの演出において、歌の尺に合わせて演者、映像、グルーボッツの動きをぴたりと合わせることは、観客の心を動かすためにも欠かせない要素になります。今回は事前にモーションキャプチャーで収録したメンバーのダンス映像のデータに、ステージ上でグルーボッツが左右に移動する動きを同期させる手法を採りました」

音楽ライブの環境下では、ロボットの駆動音が楽曲や歌唱を妨げるノイズになってはならない。そのため、中野氏をはじめとするハードウェアの開発チームは、ライブステージで使われることも視野に入れて、グルーボッツの静音動作を徹底的に追求してきた。
グルーボッツには一般的なモーターではなく、静音性に優れた大電力のブラシレスモーターを採用した。モーターのみならず、ギアを選定する際にもノイズの少なさにこだわった。
グルーボッツの基幹部分である「台座」の底面には車輪(キャスター)を搭載している。開発段階では車輪の大きさや柔らかさについても検討を重ねて、走行音を最小限に抑えつつ、動作を安定させるために低重心化を図った。
グルーボッツは本体の底面下向きにカメラを搭載して、目立たないよう床面に貼られた特殊なマーカー(タグ)をカメラで読み取りながら自己位置を判定・補正している。
今回のステージには床面と同じ色のマーカーを配置して、舞台装置が観客から見えないように徹底的に気を配った。パフォーマンスの間はグルーボッツが移動する舞台の下手側がやや暗くなるので、筆者が観劇した2階席から舞台を見下ろしても、床面がはっきりと見えることはない。それにもかかわらず、隅々にまでエンターテインメントの「没入感」を高める工夫を行き届かせた。

アイドルとデジタルキャラクターが一緒に踊った
グルーボッツの大型機のサイズはおよそ2m×2m。観客の没入感を高めるためには、ステージ上で大きなロボットの「存在を感じさせない」ことも大切だ。
本体上部のLEDディスプレイは明暗表示の制御に優れており、映像を表示した時にバックライトの光もれによる滲みがとても少ない。筐体も全体がほぼ黒色1色なので、舞台を暗くすれば空間に溶け込ませることができる。観客席からはまるで、「キャラクターが空中に浮いて動いている」ように見える。今回のステージでも見事にその特徴を活かした。

グルーボッツは静音設計を活かして “ゆっくりと動く” こともできるが、今回はナナニジのメンバーによる激しいダンスパフォーマンスに追従しながら、舞台奥側で左右にダイナミックな移動を繰り返した。
さらに小山氏の考案により、それぞれのキャラクターは上下方向に移動する “空飛ぶドローン” の上に乗ってダンスパフォーマンスを見せた。グルーボッツが搭載する大型ディスプレイの表示領域を余すところなく使うことにより、キャラクターの動きがよりダイナミックに感じられた。
アーティストが語る「グルーボッツとの共演がかなえたこと」
開演を目前に控えるバックステージで、22/7の相川奈央さんと麻丘真央さんに、今回の共演へ向けた胸中を聞くことができた。
声優として長年寄り添ってきたキャラクターと、ついに同じステージに立てる。その夢が現実となる瞬間を前に、2人は喜びを顕わにしながら笑みを交わした。
桐生塔子役の麻丘さんはグルーボッツとの共演にあたり、自身が特にこだわったポイントについて次のように語った。

「キャラクターが演者背後のどの位置に止まり、場所を変える際にはどのくらいのスピードで動くのかなど、グルーボッツの特徴も詳しくうかがいました。そのうえでスタッフの方々と相談しながら、キャラクターと一緒に立つステージを細かなところまで作り込みました。例えば、キャラクターが私の手を引っ張ったり、ペア感を意識した演出を採り入れています」
西浦そらを演じる相川さんは、キャラクターのダンスを作り上げた過程について、エピソードを交えながら振り返った。

「ステージの上でキャラクターとシンメトリー(左右対称)の動きを見せたいパートは、いつも右手から始める振り付けを左手に変更したり、ふたりだからこそできる演出を工夫しました。リハーサルでステージのライティングと一緒に動くキャラクターを見たとき、その存在感に圧倒されました」
ライブでは前半に、ナナニジの7人のメンバーがそれぞれ自身の演じるキャラクターと “ふたり” でステージに登場。キャラクターソングを披露しながら息の合ったパフォーマンスを繰り広げ、会場を熱狂の渦に巻き込んだ。
人とロボットがエンタメの可能性を一緒に広げる
今回のイベントの成功は、VTuberなどのバーチャルキャラクターが抱える「物理的な観客との距離の制約」を解消する可能性があると小山氏は期待を寄せた。これまではステージ上に設置された、動かないディスプレイの中に閉じ込められがちだったデジタルキャラクターが、グルーボッツという “身体” を得ることで観客席に迫り、熱気を共有できるようになるからだ。
ソニーの開発陣にとっては、今回のようなグルーボッツとアーティストによる共演は当初想定していなかった活用法だったという。だが実現してみて、予想を超えるシナジーの高さを目の当たりにした赤沼氏と中野氏は「大いに刺激を受けた」と口を揃える。
赤沼氏はこれからの可能性について、「アーティストとキャラクターによる一体感あふれるパフォーマンスは、一度体験すると、それなしでは物足りなさを覚えるほどの相性の良さを感じさせるものでした。今回のステージが実現できたことを大きな励みにして、今後もさらにグルーボッツが “できること” を広げたいと考えています」と語ってくれた。
ナナニジライブ in ジャパンフェスタでは、ソニーの先端ロボティクス技術がアイドルグループの夢を支え、舞台上で初の共演を実現させた。この出来事を数年後に振り返れば、エンターテインメント史における新たなスタンダードを切り拓いた画期的なマイルストーンとして刻まれているかもしれない。
