脳に乗せるタイプ

Neuralinkの2倍。4096電極の脳コンピューターインターフェースをPrecision社が開発

Image:Precision Neuroscience

人間の脳と外部のコンピューター機器を接続するインプラント「脳コンピューターインターフェース(Brain Computer Interface:BCI)」は近年、学術研究の場やベンチャー企業によって開発が活発化している。今年1月には、イーロン・マスク氏のNeuralinkが初めて四肢麻痺患者へのインプラント手術を実施し、考えるだけでノートPCを操作できるようなったことなどが宣伝された。

そして今回、新たな企業がBCIを新たに開発し、被験者へのインプラントに成功したたと発表した。Precision Neuroscienceと呼ばれるこの企業が開発したBCIにより、Neuralinkの脳インプラントが使用する1024電極、昨年成功が伝えられた2048電極を超えて世界最多となる4096電極を被験者に設置したと発表した

Precision Neuroscienceは、2016年にNeuralinkを共同設立し、2021年に同社を離れた脳神経外科医件技術者のBen Rapoport氏が2021年に新たに立ち上げた脳インプラント開発ベンチャーだ。ちなみに、Rapoport氏とともにPrecisionを設立した3人のうち2人も、元Neuralinkという肩書きを持つ。

Precisionが脳インプラントで目指すところとしては、やはりNeuralinkと同様に、脳卒中や脊髄損傷を患う患者の発話能力や運動能力の回復が掲げられている。

それならばNeuralinkを離れる必要はなかったのではないかとも思われるところだが、Rapoport氏は、Neuralinkの脳インプラント手法は侵襲性が高く、安全性への懸念があったことが、同社を離れた理由だったとWall Street Journalのポッドキャストで述べている。そしてPrecisionは最小限の侵襲性、拡張性、安全性を重視する哲学のもとに設立されたのだという。

Rapoport氏は、科学技術の世界で開発したものを医療の現場に持ち込むためには、何よりも「安全性が重要だ」と述べている。生け花に使う剣山のような従来のBCIは「脳から豊富な情報を抽出するためには、小さな針状の電極を脳に挿入する必要があるという考え」による代物だが「それらはある程度の脳損傷を引き起こすという欠点がある。私は、脳損傷を起こすことなく、情報豊かなデータを抽出できると考えている」とした。

NeuralinkのBCI装置は、手術ロボットで被験者の脳に埋め込まれる。髪の毛よりも細いという64本のワイヤーに1024の電極があり、上に記した最初の被験者の場合では、脳組織に3~5mmの深さまで挿入された。しかしその後、ワイヤーが脳組織に引き込まれたせいで電極の85%が機能しなくなり、残った15%をアルゴリズムの調整などで使用している状態だと発表された。Neuralinkは次の被験者にはさらに深い8mmほどまで電極を挿入することを計画し絵取り、米食品医薬品局(FDA)はこれを承認したと伝えられている。

Image:Precision Neuroscience

一方、PrecisionのBCIは1枚あたり1024個の電極を備えたフィルム状になっており、複数を組み合わせて使うことが可能なモジュール式になっている。被験者への埋め込み手術では、頭蓋骨に細く切り込みを開け、そこから滑り込ませるようにフィルムを入れるだけで設置が可能だ。また電極からデータを収集する処理ユニットは、頭蓋骨と頭皮の間に設置される。4月に行われた初の患者への埋め込みでは4枚のフィルムが用いられ、4096個の電極が患者の脳に設置された。そして、患者が麻酔で眠っている最中に、脳の約8平方センチメートルの領域から詳細な神経活動を記録することに成功したと報告されている。

Image:Precision Neuroscience

なお、脳に設置されたフィルムは、不要になれば、脳に損傷を与えることなく抜き取ることができるという。

Rapoport氏は「これほどの規模と量の皮質情報を捉えることができれば、脳をより深く理解できるようになるだろう」「この記録は新しい時代に向けた重要な一歩だ」と今回の手術成功に際してコメントした。Precision Neuroscienceは、2025年には最初の脳インプラント製品を市販することを計画している。

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