飛んで火に入る~より、むしろイカロスのよう?

なぜ虫は電灯に集まるのか。実は光のせいで制御システムが狂っている可能性

Image:kram-9/ShutterStock.com

夏の夜といえば、どこからか家の中に入り込んだ虫が、部屋の電灯の周りを飛び回ったりするものだ。最近はあまり見かけなくなったが、街の店舗の軒先にぶら下がる電撃殺虫器が、バチバチと音を立てているのを見たことがある人も多いだろう。

一般的には、虫が光に向かって飛ぶ習性があるからだというのが、共通の認識だろう。これは光に対する「正の走行性」と呼ばれるものだ。だが、虫は昼間、太陽を目指して高く高く飛んでいくわけではない。つまり、虫は光そのものを目印にはするかもしれないが、それを目指して飛んでいるわけではないはずだ。

ではなぜ虫は電灯には集まってしまうのだろうか?

新たな研究によると、虫たちは別に光には何の興味も魅力も感じていないのだという。そして、むしろ彼らの意に反して、虫たちは光に囚われるように集まってしまうというのだ。

インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究者らが報告した、現在査読前の段階にある論文によると、光に虫が集まってしまうのは、その虫の身体の制御システムの仕組みによると考えられている。

この研究では、虫が光に集まる際の様子を高速カメラで撮影・分析したところ、虫の行動に重要な3つの行動を発見した。まず一つ目は、虫は光源の上を飛ぶとき、どういうわけか光を背中に受けるような、いわゆる背面飛行状態になり落下してしまう傾向があった。そして二つ目には、光源の下を通過すると、虫は急激に方向転換を繰り返し、最終的には急上昇した後に失速して落下することが多かった。そして第三の行動は、虫は光に向かって飛ぶのではなく、光を真横にするように、その周囲を周回するように飛んでいるということだ。

これは、昆虫が持つ身体の制御システムとして光を背中に受けようとする「背光(性)反応」と呼ばれるものが関係していると考えられる。この仕組みは、生物が光の方向でどちらが上かを認識し、身体を直立するよう保つものだ。この反応は一部の魚類にもみられるもので、地上や水中の自然における生活では、概ね問題なく機能する。しかし、夕暮れ時や夜明けの場合、虫は問題を抱える場合があるという。

研究者らは、虫の背光反応への依存性がその虫の光源に対する習性を決定していると考えている。つまり、虫は光への性の走行性で引き寄せられるだけではなく、光に近づいてしまった結果、制御不能に陥っていると研究者たちは結論づけた。この研究は、世の中における様々な種類の昆虫について、いくつか重要なことを説明するのに役立つかもしれない。

ちなみに、冒頭に述べた電撃殺虫器を最近は見かけなくなったことに関しては、最近の電灯がLED照明に置き換わっていることが理由のひとつのようだ。虫たちの多くが感じる光の波長は人間の視覚とは異なり、極端に青側の波長に寄っているという。むしろ、われわれが見ることができない紫外線の域で光を感じているとのことだ。

電撃殺虫器は、あの青白い光とともに紫外線を発することで虫を誘引する。だが、最近増えた多くのLED照明の光にはほとんど紫外線が含まれないため、従来の白熱灯や蛍光灯に比べて虫が集まりにくなっていることから、電撃殺虫器も必要がなくなってきたということだ。またコンビニエンスストアなどの一部では、店舗のガラスにUVカット加工を施し、虫が集まりにくくなっているという。

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