開発者が語るウェアラブル開発の未来とは
ファーウェイのスマートウォッチはなぜ選ばれる? 中国の巨大ラボで見えた“技術への本気度”
スマーウォッチの市場は年々拡大し、普及率が高まりつつある。その中で存在感を増やしつつあるのが、中国の巨大テック企業であるファーウェイだ。同社は近年ではゴルフやサイクリングなど、各スポーツに特化した独自の機能を増やしつつあり、それが多くのユーザーに受け入れられている。
ファーウェイは今回、日本国内のメディアやジャーナリストなどに対し、スマートウォッチ開発の研究施設である、広東省の「HUAWEI Health Lab」を公開。同社最大規模だという施設の一部を紹介した。

ファーウェイ最大のヘルス研究施設
このHUAWEI Health Labが置かれている広東省の東莞(とうかん)市は、中国のシリコンバレーと呼ばれる深圳(しんせん)市の北側に位置。ヨーロッパ風の建物で知られる松山湖キャンパスも近くにある。

ヘルス関連の技術を研究するファーウェイのラボは、中国・東莞、中国・西安、フィンランド・ヘルシンキの3か所に設置されている。面積は順に4,680平方メートル、1,100平方メートル、1,000平方メートルとなり、東莞が最も面積が広い。
今回訪れた東莞のラボでは、スポーツおよび健康とトレンドのアルゴリズムについて研究されている。外部公開できる曜日が決まっているそうで、取材に訪れたのは水曜日だった。
今回公開されたのは1階部分のみだが、2階と3階でも研究が行われており、そちらでは医療機器とウォッチの数値の誤差を比較するなどして、心拍や血中酸素濃度、HRV、血圧などのテストが実施されているとのこと。

なお、ファーウェイではラボの役割を「531計画」で定めており、製品化の5年前の技術はヘルシンキ、3年前は東莞、1年前は西安で研究するそうだ。たとえば、東莞では新しいスポーツ機能の先行研究を行い、西安は製品に落とし込む前の最終段階となっている。ヘルシンキではスキーについての研究や、身体の不自由な方に向けた研究も行っているという。
様々なスポーツを実施、データが取れる環境整備
さて、この施設の1階部分では、100種類のスポーツについて研究が行われている。研究では多くのユーザーからデータを取得する必要があるが、ファーウェイではデータの多様化を図っているとのこと。通常のユーザーやベテランのユーザーだけでなく、アスリートやオリンピック選手からもデータを取得しているそうだ。

この施設では中国の国家体育総局との合同研究も行われており、オリンピックで着用するスポーツウェアの改善も行っているとのこと。一例として、射撃競技の主要装備の国産化に向けた取り組みが紹介され、金メダルを獲得した2024年パリ五輪の射撃装備も展示されていた。

施設内には多くのスポーツを試せるような環境が整っており、その様子に対して多くのカメラやセンサーを使ってデータを取得できる。なお、この施設は先行研究のための場所で、最終的なテストを実地でも行うとのこと。
では、個々の研究設備を順番にご紹介していこう。一番広いのが中央にあるコートで、外周に28台のモーションカメラが設置されている。卓球台やテニスコート、バスケットゴールなどが置かれ、あらゆる運動をした際の心拍数を測定できるようになっている。コート横のクライミングウォールは、数年前に新しく作られたものだ。


スマートウォッチというとランニング目的に装着するユーザーも多いと思うが、中国でもランニング人口が増えているという。施設には複数のランニングマシンが設置され、ウォッチと心拍ベルトの測定値を比較できる設備が用意されている。マシンは0〜25度の角度調整、時速40kmまで0.1km単位の速度調整ができる。

さらにランニング用に、屋外と屋内にまたがってトラックが用意されている。トラック上には随所にセンサーが仕込まれており、足が地面に加えた圧力と角度を測定することができる。


ゴルフシミュレーションも比較的新しい設備だ。ここではフォームだけでなく、スイングのヘッドの角度までを記録することが可能。2万以上のマップのシミュレーションに対応する。

スキー用の設備も最近追加されたもの。以前は卓球部屋として使っていたという。特殊な構造の床面がベルトコンベアのように回転し、狭い室内でもスキーの検証が行える。時速30kmまでシミュレートでき、傾斜も付けられるという。

水泳用のプールも用意されており、こちらも壁にセンサーとカメラを設置することで、フォームを分析することができる。プールの大きさは2.52W×5.02H×1.6Dmと、一般的なプールに比べるとかなり小さいが、片方から水を流すことで泳ぎ続けられる。最大流速は1.5m/sで、ほとんどのユーザーをカバーできるとのこと。

自転車に向けた設備もあり、こちらには巨大なルームランナーのような機械が設置されている。時速50kmまで設定することができ、角度は-4〜12度まで設定可能。部屋にはHDのモーションカメラが設置され、3次元的にフォームを分析できるようになっている。


高原環境のための設備も用意されている。部屋の中を温度-10〜40度、標高海抜4000mまで、湿度35〜95%といった条件にコントロールすることが可能。高原におけるハイキングであったり、ベッドを置いて1日の生活を検証したりといったことが行える。

そのほか、サードパーティのサービスとの連携を確かめるため、パワートレーニング用の器具も用意されている。このように、多くのスポーツに対応できるような広い空間と最新の設備が整っており、ファーウェイが研究に対しての投資に力を入れていることが実感できた。

グローバル1位、累計2.5億台のウェアラブル出荷
深圳市内にあるファーウェイの本社では、ウェアラブル開発部門の担当者によるプレゼンが行われ、同社の技術の進歩とヘルスケアにおける戦略について紹介された。

ファーウェイではヘルスケア分野に過去12年間投資を続けてきており、これまで累計2.5億台のウェアラブルデバイスを出荷してきた。その出荷台数は中国市場では7年連続、2026年上半期にはグローバルでも1位の出荷台数を実現している。
同社のウェアラブル端末は、iOSとAndroidのOSに対応していることも大きな強みだ。両OSを合わせたユーザーは6.2億人にのぼり、有料のサブスクリプションサービスもグローバルで3,700万人が登録している。
国内外の病院や大学などとの共同研究にも注力しており、現在180の機構と340項目のプロジェクトが進んでいるとのこと。タイやマレーシアの病院、ドバイの保健機関(Dubai Health)との連携や、ESC Congress(欧州心臓病学会会議)における研究結果の発表など、グローバルな取り組みを行っている。

ウェアラブル製品を継続して身につけて計測できるよう、信頼性の高い素材を採用し、美しい外観を追求している。たとえば「HUAWEI WATCH Ultimate」にはジルコニウム素材やサファイアガラスを使用している。血圧測定できるスマートウォッチ「HUAWEI WATCH D2」では、エアカフに通気性の良い材料を用いた。バッテリー持ちとセンサー精度も重要で、これらを高めるために様々な研究を行ってきたそうだ。
コロナ禍を経てグローバルで健康意識が高まったことを機に、ファーウェイでは病気を未然に防ぎつつ、早期発見を目的としたプロジェクトを発足。日本でも厚生労働省が、病気を未然に防ぐ取り組みを公表している。
人間の身体は非常に複雑なシステムであり、睡眠や心電図などをワンポイントではなく、総合的に評価する必要があるという。そこで2024年、 “フルスタックな研究プラットフォーム” となる「HUAWEI TruSense」を開発した。
進化していくHUAWEI TruSenseシステム
HUAWEI TruSenseでは、高精度、高速、包括的、柔軟性、開放性、拡張性を特徴としている。精度の高いモニタリングを追求するだけでなく、心房細動や睡眠時無呼吸症候群など偶発的な事象を捉えるため、データをスピーディーに取得する必要があるとのこと。
精度においては、肌の色の違いや、腕の毛の量、腕の細さ、ベルトの強さなど、ユーザーごとに装着条件が異なってくる。様々な条件で正確に計測するため、数多くの研究を行ってきたそうだ。また、運動時にはデータにノイズが入ったり、低温環境では血管の収縮によってセンサーからの信号が弱くなったりしてしまうが、そういった課題の解決についても研究を続けているという。
ただし、睡眠モニタリングについて、電車や飛行機でのうたた寝を計測することは難しいという。ノイズをどう除去するのかは非常に大きな課題だとするが、継続的に研究を行っており、飛行機での仮眠は「今後できるようになると思う」と話す。睡眠については、従来の深い/浅い/レム睡眠といったステージだけでなく、心肺カップリング(CPC)に基づいた「睡眠の安定性」という指標も直近で追加した。
また速度では、高原地域などですぐに対処が必要なケースを想定し、血中酸素の計測は2021年の45秒以内から、2025年には10秒以内へと短縮された。1秒ごとに傾向を把握できるようになり、血圧のリスク評価も24時間以内で行えるようになっている。

医療機器は病院で検査を受けた一瞬のデータしか取れないのに対し、ウェアラブル製品は水泳中や入浴中でも24時間装着でき、長期的にデータを取得できるという優位性がある。医療機器と同じ精度を実現することは筐体サイズもあり困難だが、血圧、血中酸素飽和度、体温、心拍数、呼吸数などを連続的にモニタリングすることで、病院のデバイスでは捉えきれないリスクを早期発見できるとしている。
一方で、夜間も装着して睡眠を邪魔されたくないというユーザーや、運動中に使いたいユーザー、血圧を重視するユーザーなど、そのニーズは多岐にわたる。ファーウェイでは様々なユーザーのニーズに応える製品ポートフォリオを目指しており、流行りの画面のないバンドについても「対応できるようになると思う」とのこと。また、同社は現在スマートリングを販売していないが、リングはウォッチと補完関係にあるとして「私たちにとってはチャンス」と説明した。
HUAWEI TruSenseには拡張性が確保されており、中長期的には新しいセンサーを開発し、より多くのバイタルサインがモニタリングできるようにしていきたいという。非侵襲型の血糖値測定についても「すぐに実現できるものではない」としつつ、「いずれはできるようになると思う」と説明した。
また現在、AIを使った新機能の開発を進めており、ユーザーに合ったアドバイスの提供を目指している。これは「最も大きな変革の可能性の一つ」とのことで、ユーザーのプライバシーやセキュリティを守りつつも、「その人にあったサービスをより柔軟に提供」していきたいと述べた。
ユーザーのスポーツシーンや日々の健康を支えるために、研究投資を惜しまないファーウェイ。同社のウェアラブル端末が、これからどのように進化していくのか楽しみだ。
