【連載】西田宗千佳のネクストゲート 第7回
アップル秋の新製品、実機をまとめて紹介。現地からファーストインプレッション
「iPhone 14」シリーズをはじめとした、アップルの新製品群が発表された。筆者は現在、米カリフォルニア州に滞在中だ。もちろん、新製品発表会を現地で取材するためである。
コロナ禍で、iPhoneの発表会は2年連続で動画配信になり、現地でのハンズオンを含めた取材が行えたのは3年ぶりのことになる。現地はもうマスクをしている人も少なく、久々に「密」な感じではあり、多少の戸惑いがあったのは事実だが、今までと同じように取材できるありがたさも感じている。
ここではそれぞれの新製品について、ハンズオンで分かったことを含めたファースト・インプレッションをお伝えしたい。
大きいがそれだけ「特別」なApple Watch Ultra
まずは今回の「大物」でもある、「Apple Watch Ultra」から行こう。
今年のApple Watchは3モデルになった。低価格な「SE」、スタンダートな「Series 8」はいつも通りと言えるが、Series 8には皮膚温度計が搭載され、着実な進化を続けている。Series 8の温度計を、アップルは女性の体調維持にフォーカスして解説したが、これも、「毎日とにかく継続して体温変化を記録しておく」ニーズとその大変さを考えると、非常に正しいアピールだと思う。
そして、さらに特別なモデルとして登場したのが「Ultra」だ。
過去、Apple Watchの「特別なモデル」はラグジュアリーな方向だった。だが、Apple Watchが健康・安全にフォーカスし、常につけ続けるものとしてのアピールを強めた結果、「通信や位置計測などがより重要シーンで使う」ことを求める人々向けの製品が必要になってきた。要はそれが、より厳しい環境でのスポーツなどを好む人々向け、ということになったのだろう。
サイズが大きいのはウェットスーツや登山服なども考えてのことだろうし、手袋をしたままでも操作しやすくなっている。ダイバーズウォッチなどの市場を、かなり本気で狙ってきている。
「でもそこまで激しいスポーツはしないし……」という声も聞こえてきそうだ。だが、ハンズオンで腕につけてみると、「これは確かに大きいけれど、日常使いを否定するものでもないし、山に登らない人が買ってもいいのでは」と感じた。
というのは、付け心地がかなり軽いのだ。質量はSeries 8と比較しても20gくらい重いので、「軽く感じる」というのが正確だろう。49mmという画面サイズの大きさに比べて軽く感じる部分もあるし、ボディの素材がチタンであること、バンドを含めたバランスの問題で軽く感じる、というところもあるだろう。
そもそもUltraは、「機能全部入りのApple Watch」でもある。準天頂衛星システム「みちびき」への対応も含む、L1とL5を使った「高精度2周波GPS」に対応するのは、Apple WatchではUltraだけだ。この機能は山の頂上に行くような時よりも、ビル街でのジョギングなどで効果を発揮する。
動作時間も36時間と、他のApple Watchの倍。スマートウォッチで画面が大きいのは、機能的にはプラスでもある。この大きさとデザインがNG、という人にはもちろん向かないが、これはこれでアリだと筆者は感じている。
6.1インチと6.7インチの組み合わせになった「iPhone 14」
見た目が全く違うApple Watch Ultraに対し、iPhone 14シリーズや第2世代AirPods Proは、色などを除くと変化が小さいように思える。ただ、アップルは「あえてデザインは変えない」パターンを採るメーカーなので、変わっていないことが悪いわけではない。
iPhone 14は、カラーバリエーションがさらに増えて、サイズが「スタンダード(6.1インチ)」と「Plus(6.7インチ)」の2つになった。日本で要望の多かった「mini」は14世代に刷新されなかった。ただ、販売製品としてはiPhone 13 miniがラインナップに残るようなので、小さいモデルが欲しい人はそちらを、ということなのだろう。また、(PRODUCT)REDの色味がかなり変わったのも興味深い。
iPhone 14 Plusは、大画面を求める人向けということになるが、機能はiPhone 14とまったく同じであるという。違いは画面サイズとバッテリー容量だ。この辺は、これまで「Pro」と「Pro Max」の違いとして語られてきた部分と同様だ。すなわち「好みで選んでいい」ということである。
プロセッサーはiPhone 13 Proと同じ「GPUが5コアのA15 Bionic」になった。だからゲーム向けには若干の性能向上が見込める。そのためか、放熱機構には改善が加えられたという。
iPhone 14 Proの「Dynamic Island」はどんな感じか
iPhone 14 Proシリーズの方は、13 Proからの進化・変化の度合いがもう少し大きい。
特に目立つのは、いわゆる「ノッチ」が「Dynamic Island」という機能に変わったことだ。上までつながった切り欠きではなく、横に長いバー状になったわけだが、実際はピンホール的なカメラ部と横長のセンサー部をつないだような構造らしい。
この部分の周囲を生かして通知などのアニメーションを工夫したのがDynamic Islandの特徴である。実際に動くのをみると、なかなか面白い。黒い領域は結局ずっと残っているのだが、周囲が動くことでなんとなく「気になりづらい」ものにしているわけだ。
それでも画面に「黒い部分」があることに違いはなく、正直好きではないのだが、アップルがなんとかベターな方法を探ろうとしているのもよくわかる。
カメラについては、14 Proシリーズはメインカメラ(これまで「広角」と呼んでいたもの)を4800万画素のセンサーに変えた。
これ自体は業界のトレンドにのったもので、そこまで珍しいものでもない。画素をいくつかまとめて暗い部分の撮影品質を上げる、俗にいう「ピクセルビニング」を採用しているところも同様だ。
実際の画質は実機をじっくりテストするまで判断するのが難しい。とはいえ、暗い部分の画質が上がっているのは疑いないし、動画についても、「アクションモード」によるブレ補正など、機能は着実にアップしている。
形は同じだが中身が完全に変わった「AirPods Pro」
第2世代になったAirPods Proは、iPhoneよりさらに外見での差がわからない。これはアップルが意図的に変えていないのだ。内部のプロセッサーもオーディオドライバーも、マイクもセンサーもすべて新規設計になっているので、デザインは「維持した」と考えるべきだ。
変わったのは充電ケースの方である。多くの人が待ち望んでいたであろう、ストラップホールの追加はありがたい。また、UWBを使った位置認識システムである「U1」を搭載しているので、家の中などでどこにあるかがわかりやすくなる。
AirPods Proそのものの音質については、やはりまだ明確な判断を下せる状況にない。だが、新機能である「適応型環境音除去」はとてもいい機能だ。
初代モデルからAirPods Proは、マイクで外音を取り込んで聞く「外音取り込み」機能があった。かなり周囲の音が自然に聞こえるものではあったが、自然なだけに騒音も取り込んでしまった。
適応型環境音除去は、周囲の騒音を85dB以下に下げ、耳への悪影響を防止する。周囲の状況がどうあろうと自動的に調整するので、「音が聞こえる耳栓」のようにも働くわけだ。
また、操作部には音量調節用の「スワイプ」機能が搭載された。この種の小さい面積で操作する機能は誤動作も多いのが気になっていたが、第2世代AirPods Proでは非常に使いやすく、安定していた。この点もまた、大幅な設計変更の賜物だ。
製品を手にして、音をチェックするのが楽しみになってきた。