「自分で考えること」が、その後の人々の能力を左右します

AIチャットボットは「人が自分で考えようとする意思」を奪うとの研究結果

Munenori Taniguchi

Image:Chay_Tee/Shutterstock.com

米国と英国の複数の大学や研究機関からなる研究グループは、AIを「推論集約型」の認知作業に利用する人々を追跡調査し、生成AIチャットボットは「一時的なパフォーマンスを向上させるが、認知的負担は大きいことがわかった」と述べている。

「AI assistance reduces persistence and hurts independent performance(AI支援は持続性を低下させ、自立したパフォーマンスを損なう)」とタイトルがつけられた論文として発表されたこの研究では、わずか10分間のAI利用で人々がAIに依存するようになり、AIツールを取り上げられるとパフォーマンスの低下ばかりか、燃え尽き症候群のような傾向を示すようになると指摘している。

研究者らは、米国人のボランティア350人を集めて行われ、分数を使った数式を解くよう依頼した。実験参加者の半分は、自力で式を計算して回答することが求められたが、残りの半分にはOpenAI GPT-5をベースとする専用のチャットボットへのアクセス権が与えられた。ただし、このAIチャットボットのアクセス権は参加者が回答を得る前に停止される仕掛けになっていた。

結果を見ると、AIチャットボットへのアクセス権を途中で失ったグループは、自力で回答したグループに比べて正答率が大きく低下し、回答することすら諦めてしまう人が続出したとのこと。この傾向はより大きな670人のボランティアを対象とした実験でも同様だった。

「AIの継続的な使用が、長期学習を促進するモチベーションと粘り強さを損なう場合、これらの影響は何年もかけて蓄積され、目に見えるようになる頃には元に戻すのは困難になるだろう」と、この研究は警告している。

この研究の共著者で、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の助教授を務めるラチット・ドゥベイ氏は「AIを奪われると人々は単に間違った答えを出すだけではなく、AIなしで問題に答えようとさえしなくなる」「人々の粘り強さは低下する」と述べた。

ただ、AIアクセス権を取り上げられたグループのなかでも、チャットボットに問題を解かせて回答させようとした人々は、当然ながらかなり苦戦を強いられた。一方で、チャットボットに問題を解くためのヒントを尋ねた人々は、AIの助けを失っても、良い結果を出せたとのことだ。

ドゥベイ氏は、認知労働をチャットボットに過度に依存させることで、人々がよりせっかちになり、さらにはAIへの過度な依存が中毒のような状態になる可能性を懸念している。だがそれよりも心配しているのは、人々が自力で問題を解決しようと奮闘する中で、いったんAIに依存してしまうと、その人の自信や自己肯定感をどう変えてしまうのかということだそうだ。

そしてドゥベイ氏は、自身が「大学で学んだ最も重要なことは、努力の価値だ。努力すれば、多くのことを(自力で)成し遂げられるようになる」と振り返り、学校や地域社会はAIチャットボットを教育方針やカリキュラムなどに「安易に」組み込むことに関して、もっと慎重に検討するべきだと指摘した。

人は、試行錯誤を繰り返すことで様々な知識や技能を得ていく。教育は問題やそのヒントを人々に与え、人々はそれを自ら解いていくことで基礎知識や応用知識を身につける。小さな子どもにAIチャットボットの使い方を教えてしまえば、AIはその子どもが自ら学び、応用力を身につける機会を奪ってしまいかねない。

ドゥベイ氏は「私が最も懸念しているのはそこだ」とし、「あらゆることを大規模にAIに任せるようになったら」「学習意欲のない世代、つまり自分に何ができるかすら知らない世代が生まれることになる。本当にそうなれば、人間のイノベーションと創造性は著しく低下するだろう」と述べた。

この研究論文はまだ査読を受けていないが、論文中で研究グループは、より長期的な実験へと研究を拡大するとしつつ、様々な業界の人々に対し、「AIを使って何ができるかだけでなく、AIを使わずに何ができるかについても考える」よう呼びかけている。

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