【連載】山本敦の発見!TECH最前線 第7回
多機能を捨てた先にある進化。Even G2が描く「日常化するスマートグラス」

中国・深センを拠点とする新興のテックカンパニー、Even Realitiesが送り出したスマートグラス「Even G2」と、そのコンパニオンデバイスであるスマートリング「Even R1」を約1か月間にわたり、日常の様々なシーンで試した。
その間にもファームウェアのアップデートが頻繁に行われ、デバイスの各機能が洗練されてきた。視力補正器具としての眼鏡を常用する筆者の視点から、Evenのスマートグラスの現在地をレポートしたい。
まるでふつうの眼鏡。日常的に使えるスマートグラス
筆者は長年、近視のために眼鏡を欠かさず着用している。近年は加齢に伴って、近くを見ることも楽ではなくなってきた。仕事がら最新のテクノロジーには常に触れているが、ことスマートグラスに関してはこれまで「理想」と「現実」の乖離を感じることが多かった。
というのも、スマートグラスとして市場に投入されてきた製品はエンターテインメント、つまり動画視聴やゲーム体験に特化したものが多いからだ。それらは没入型の斬新な映像体験を楽しませてくれるが、一方では形状がかさ張るため、スマートウォッチのように24時間身に着ける使い方には適していない。
筆者が求めているスマートグラスは「特定の目的」のために装着するデバイスではなく、眼鏡としての機能を損なうことなく「日常的に使い倒せるパートナー」だ。Even RealitiesのEven G2は、まさに筆者が期待する方向からスマートグラスのあるべき姿に挑んでくれたプロダクトだ。

本機の最大の特徴は情報の提示手法にある。眼鏡のフレームに内蔵された超小型LEDプロジェクターが、レンズに埋め込まれた透明なスクリーンに情報を投射する仕組みを基本形としている。
レンズの上半分にスクリーンを配置する設計も秀逸だ。スクリーンが透過表示であることに加えて、ユーザーが意識的に視線を上げない限り、表示される情報は視界を妨げない。
絶妙な位置にスクリーンがあるので、情報を確認しながら手元のキーボードを操作したり、スマートフォンやタブレットの画面にも自然にタッチできる。投射される緑色のモノカラーテキストは、日中の屋外でも十分に読み取れる輝度と精細さを確保しており、実用レベルの解像感を備えている。

Even G2にカメラは搭載されていない。また、動画の視聴や音楽再生といったマルチメディア機能も備えていない。会話の自動文字起こしや翻訳など、対人コミュニケーションを支援する機能を実現するためにマイクは内蔵している。これらはビジネスシーンや、言語の壁に突き当たる場面において、極めて実用的な価値を提供する。
フィッティングの自由度が高い
眼鏡ユーザーのひとりとして、本機に惹かれた点のひとつが軽快な装着感だ。本体質量はわずか36g。マグネシウムとチタニウムを組み合わせた高強度かつ軽量なフレームを採用しており、テンプル(つる)の曲げ調整もできる。
さらに鼻あても備わっており、ユーザーの顔の形状に合わせてフィッティングを追い込める。このあたりからも、Even G2が眼鏡としての基本性能を重視するスマートグラスであることが伝わってくる。


今回、筆者は自身の処方箋に基づき、視度調整済みの専用レンズを装着した状態で実機を試せる機会をいただいた。
視度調整のためのアタッチメントを介さず、裸眼(矯正された状態)で直接スクリーンを視認できる感覚が心地いい。装着した様子は自分自身のみならず、周囲が見てもごく普通の眼鏡と見分けがつかないと思う。
実際、本機を約1か月テストしている間に、周りから「お、それスマートグラスですか?」と声を掛けられたことは、業界関係者を除いて2回(2名)しかなかった。

筆者は昨年、日本国内でEven Realitiesが記者発表会を行った際、同社CEOのウィル・ワン氏にEven G2のコンセプトを聞いた。
ワン氏は自身が生粋の眼鏡ユーザーであることから、本機の「装着感の心地よさ」を磨くことには徹底してこだわったと語っていた。筆者も目を輝かせながら、ワン氏の話に耳を傾けていた。
スマートグラスが、色んなメンテナンスに手間のかかるデジタルガジェットになってしまうと興が冷める。Even G2はフル充電で2日以上の連続駆動を可能にし、IP65相当の防塵・防水性能も確保されているため、雨天時でも屋外で気兼ねなく使用できる。
一般的なスマートウォッチやスマホを扱うぐらいの感覚で、ラフに付き合えそうだ。
スマートリングでアクティビティトラッカーの機能を追加する
Even G2の操作をより円滑にするために用意されたのが、スマートリングの「Even R1」だ。このリングにはタッチパッドが内蔵されており、グラス側のセンサーやスマートフォンアプリを介さずとも、指先でのスワイプやタップによってメニュー操作が行える。

しかし、本機については現時点での操作性に課題も残ると感じた。筆者の操作との相性もあるだろうが、意図しない誤操作が発生しやすく、結局はグラス本体のタッチセンサーやモバイルアプリでの操作に頼ってしまうことが多かった。
Even R1リング単体のアクティビティトラッカーとしての機能は充実している。睡眠スコアの計測やパフォーマンス解析など、ヘルスケアデバイスとしての実用性は高いと思う。
一方、バッテリー持続時間は約4日間で、競合となる他社製スマートリングと比較するとやや短めだ。また、バッテリー残量をアプリ経由でしか確認できない点は不便に感じる。
例えば充電が必要なレベルになった際、リング内側のLEDが点滅して通知するような直感的なユーザーインターフェースが、ソフトウェアアップデート等を通じて追加されることを期待したい。

集中を削がない静かな使い心地
Even G2の特徴は高機能でありながら、存在感は極めて「控えめ」なデバイスであることだ。
会議中に「会話サポート」機能を使用すれば、相手の発言がリアルタイムでテキスト化され、必要に応じてAIが要約してくれる。ユーザーは会話からわずかに遅れて表示される文字を追いながら、内容への理解を深めることができる。
特に対面での会話よりも、発表会や基調講演といったプレゼンテーションの内容把握においてその有用性を強く実感した。なお、スクリーンに表示されるテキストは周囲からは見えないため、スマートグラスの使用が相手に気付かれることはなく、会話の雰囲気が損なわれる心配もない。
「Even AI」との対話も、音声で問いかけた回答がスクリーンにテキストで表示される。スマートグラスが音声を発することもないので、周囲の静寂を乱すことがない。ユーザーと周囲の集中を削がないスマートグラスであることが、Even G2の最も大きな魅力と言えるかもしれない。
ただし、いくつかの機能には改善の余地もある。例えば「ナビゲート」だ。スクリーンに表示される地図が小さすぎて判読が難しく、現状では実用的とは言い難い。地図そのものを表示するのではなく、進行方向を示すポインタや距離情報に特化するなど、情報のミニマリズムを徹底したUIへの最適化が求められる。

「Even Hub」とオープンプラットフォームの展望
Even Realitiesは2026年3月、外部デベロッパ向けの新たなコミュニティとなる「Even Hub」をローンチした。サードパーティ製のアプリ開発を加速させるプラットフォームにもなりそうだ。
既に電子書籍リーダーやチェスゲームなどが公開されているそうだが、筆者の見解としてはこのデバイスで長時間の読書やゲームを楽しむことは本質から逸れてしまうように思える。むしろEven G2が持つ「通知」や「支援」という特性に合致したアプリが増えてほしい。「静かな使い心地」という美点を活かすアプリこそが、他社にない強みをEvenのスマートグラスにもたらすと思うからだ。

今回のテストを行っている期間中に、筆者がいつも通うカフェまで本機を身に着けて出かけたところ、スタッフから「眼鏡を変えましたか?」と聞かれたので、「これ、スマートグラスなんですよ」と答えたところ、「ということは、いまカメラで撮影しているんですか…」と警戒されてしまうことがあった。本機にはカメラが搭載されていないことを説明し、理解してもらったことで事なきを得た。
これからスマートグラスのイメージが先行して普及する時期には、同様のことが起こる可能性がある。「カメラを起動中にはLEDが点灯するかどうか」は問題ではなく、スマートグラスが静止画・動画の撮影に使うデバイスというイメージが拡大してしまうと、身に着けているユーザーに対する警戒心が生まれてしまう。場合によってはトラブルに発展しかねない。筆者もこの点について認識を改めるきっかけになった。
Even Realitiesが「カメラを搭載しない」という選択をした背景には、技術的な制約というよりも、社会に自然に溶け込むための戦略的な判断があると筆者は捉えている。デジタルデバイスがユーザーの使用環境にも自然に溶け込み、日常生活の一部として受け入れられるためには、プロダクトの作り手にも同様の配慮が不可欠だと思う。
今後、Even G2のような製品が増えて、Ray-Ban Metaのようにカメラを内蔵した製品が先行して形づくってきた「スマートグラスのイメージ」はより多様化し、幅広いシーンでスマートグラスを身に着けられる環境が整うことを期待したい。

「多機能であること」を捨てるところから始まる進化もある
Even G2を1か月間使い続けたことで、筆者がスマートグラスに対して漠然と抱いていた理想像が、少しずつ輪郭を帯びてきた。
それは「多機能であること」を捨てるところから始まるように思う。テック業界ではスマートグラスを「スマートフォンの次を担うデバイス」と位置付ける向きも少なくないが、眼鏡というデバイスはスマートフォン以上にユーザーの生活に密着している。四六時中、あらゆる情報が視界に飛び込んでくるような環境はデジタルデトックスの観点からも健全とはいえない。

Even G2が示したのは、眼鏡としてのデザインと軽さを最優先し、必要な機能だけをミニマルに提示する「シンプルなディスプレイデバイス」というあり方だ。計算リソースや複雑なネットワーク処理はスマートフォンに委ね、特定の操作や生体情報の収集はEven R1のような周辺機器が担う。
つまり理想的なスマートグラスとは、それ単体で完結するオールラウンダーではなく、身体の一部となるユーザーインターフェースの役割に徹し、機能やサービスは周辺エコシステムとの組み合わせによって柔軟に「アドオン」していくスタイルこそが、今後の主流になるのではないだろうか。
今年はグーグルからも最新の純正スマートグラスが誕生すると言われている。多くのユーザーが日常的に使えるスマートグラスの決定版が現れるのか注目したい。
