生成AIの倫理的な活用方法

AI生成ヴァル・キルマー出演映画『As Deep as the Grave』ファーストイメージ公開

Munenori Taniguchi

Image:Elliott Cowand Jr/Shutterstock.com

エンタメ系情報サイト米Varietyが、2025年に咽頭がんで死去した米国の俳優ヴァル・キルマー出演の映画『As Deep as the Grave』のファーストイメージを公開した。だが、キルマー本人はこの作品の撮影に参加していない。これはいったい、どういうことだろうか……?

結論から言えば、この映画はキルマーをキャスティングした役柄を別の俳優が演じ、その顔にAI生成したキルマーの顔を合成している。

この映画の脚本・監督を務めているコーテ・ヴォーヒーズは、このカトリック司祭でなおかつネイティブアメリカンの霊媒師という役柄を、どうしてもキルマーに演じて欲しかったのだと言う。「この作品はまさに彼を中心に構想していた。彼のネイティブアメリカンの血筋や、南西部との繋がり、そして南西部への愛情を作品に反映した」と監督は述べている。

だが、キルマーはこの作品の撮影においてスケジュール上は問題なかったが、すでに体調は深刻化し、撮影できる状態ではなかったとのことだ。

それでも、どうしてもキルマーを起用するという構想を実現したいと思った監督は、最先端の生成AIを用いて、キルマーを出演させることを考えた。もちろん、無断で役者の肖像を使って出演させるわけにはいかない。だが、キルマーの娘メルセデスと息子ジャック、その他遺族は、故人がこの作品に出演することを強く希望していたとして、監督に協力を申し出たという。

そして、監督はキルマーの晩年の映像や若い頃の写真などから、人生の様々な場面でのイメージを作り出した。もちろん、セリフにもキルマーの音声を使用している。晩年のキルマーは気管を手術して発声に問題があったが、映画の役柄も結核を患っている設定であり、これが逆に俳優本人の病状を反映するユニークな機会となり、本人と作品を結びつける一種の架け橋になったと監督の弟でプロリューザーのジョン・ヴォーヒーズは述べている。

Image:Variety

映画のあらすじは、米国南西部の考古学者アンとアール・モリス夫妻の実話に基づいており、彼らがアリゾナ州キャニオン・デ・シェリーでの発掘調査を通してナバホ族の歴史をたどる様子を描く。インディーズ作品だが、キャストには『ハリー・ポッター』シリーズのマルフォイ役として人気のトム・フェルトン、チェロキー族出身の俳優ウェス・ステュディ(『ダンス・ウィズ・ウルブズ』etc…、『ヒート』でキルマーと共演)、アビゲイル・ブレスリン(『サイン』や『ゾンビランド』他)ら、有名どころが名を連ねる。

生成AIをめぐっては、その使われ方によって方々で物議を醸している。特に映画を含むクリエイティブな業界では、この技術によって俳優の肖像が本人の同意なしに使用される可能性や、さらには雇用喪失につながる可能性に対する懸念が広がっている。

ヴォーヒーズ兄弟は、自分たちの決断が批判を招く可能性があることを承知しており、当然ながら制作にあたっては遺族の了承だけでなく、全米映画俳優組合(SAG)のガイドラインの遵守、キルマーに支払うべきギャランティーの遺族への支払いなどもきちんと行った。そしてこの作品を通して、生成AIの倫理的な活用方法を示したいと考えているという。

ちなみに、キルマーは2014年の咽頭がんの治療の際に本来の声を失っており、2021年8月にはソナンティック社と提携し、自身のAI音声を作成したと発表している。

キルマーは当時、声明で「人にとって、コミュニケーション能力は存在の根幹だ。喉頭がんの副作用によって、私の言葉を他人が理解することが難しくなっていたが、本物らしく、親しみやすい声で自分のストーリーを語れる機会を得られたことは、この上なく特別な贈り物だ」と述べ、日常生活において再び「自分の声」で家族や友人とコミュニケーションが取れるようになったことを喜んでいた。

この技術はキルマーの遺作である『トップガン マーヴェリック』での短いセリフでも使用されたと言われている(ただし、同作のスタジオ関係者はAIは使用していないとしている)。

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