人や自転車の多い街中でも安全な自動運転が実現する?

道ばたに設置し自動運転車のレーダー精度を向上させる「EyeDAR」、研究者が開発

Munenori Taniguchi

Image:Rice University

自動運転車は進化を続けているはずだが、ここ数年はどちらかと言えば、限られたエリアで無人車両による配車サービスを提供する、いわゆるロボタクシーとしての話題が多い。ドライバーが運転操作をせずとも、自動車が目的地まで自律的に走って行ってくれる「未来のクルマ」の実現が近づいてきていると実感している人は、ほとんどいないのではないだろうか。

テキサス州のライス大学の研究者は、安全な自動運転の実現には自動車だけでなく、道路インフラ側にもアップグレードが必要になると考え、路傍に設置し自動運転車のレーダーに周囲の交通状況に関する重要な情報を提供するレーダー技術「EyeDAR」を発表した。

ソフトボールほどの大きさをした球形の低消費電力ミリ波レーダーであるEyeDARは、街灯や交差点などの重要な場所に設置する。そして、自動運転車の有効検知範囲外や、霧や煙あるいは逆光などで自動運転車の視界が著しく制限されるような状況下に、自動運転車が突発的な障害物を検知できるようにする。

自動運転車は一般的に、レーダー、LiDAR、イメージカメラという3つの補完的なシステムを組み合わせて周囲を「認識」する。光学センサーとしてのカメラは、歩行者、車両、交通管制装置を完全に識別することで視覚認識が可能になる。

LiDAR(Light Detection and Ranging)は、レーザーパルスを発射し、その反射時間を測定して高解像度の3D点群を生成するアクティブセンシング技術であり、レーダーや視覚システムではカバーできない空間認識の重要なギャップを埋めることができる。正確な奥行き認識も提供可能だが、カメラと同様に天候の影響を受けやすいという欠点もある。

最後のレーダーは、コウモリの超音波による障害物検知と非常によく似た仕組みを持つ。このセンシング技術は、あらかじめ決められた方向に電波を発信することで機能し、それが経路上の障害物にぶつかったときに、電波の一部が反射して送信元に戻ることで、障害物を検出する。

しかし、反射して戻ってくるレーダー信号はごく一部に過ぎず、実際には信号の大部分が送信装置から遠く離れて突き進んでいってしまう。これでは、自動運転車は常に正確に、邪魔な物体の存在を把握することができない。特に、大型車両の陰から突然現れる歩行者、交差点内をのろのろと移動する車両、予想外の角度から接近してくる自転車などは見落としやすい。

そこで、EyeDARが役に立つ。EyeDARは、人間の目に着想を得た、主に2つの構成要素から成り立っている。まず1つめは、人間の目の水晶体と同様に機能し、あらゆる方向から入射する電波に対して、均一の特性を持ったアンテナとして作用する3Dプリント樹脂製「ルネベルグレンズ」、そしてもう1つはレンズの背面を取り囲むアンテナアレイで、これは網膜と同様に機能し、信号を検出してその方向を特定する。

このEyeDARを信号機や一時停止標識、街灯などといった道路沿いのインフラに設置することで、通常なら散逸してしまうレーダーの電波を捉え、自動運転車から発せられた信号を、反射すべき方向へと返すことで、車両のセンシング精度を大幅に向上させる。

EyeDAR研究チームを率いるライス大学のクン・ウー・チョ氏は「これは、車のレーダーシステムに一対の目を追加するようなものだ」と述べている。そして「我々が開発したレンズは、独自の形状と異なる屈折率を持つ8000個以上の微小な要素で構成され」ており、これらの要素を慎重に配置することで、レンズ構造は入射するレーダー信号とインテリジェントに相互作用し、それをアンテナアレイ上の正しい位置へと導くことができると説明している。

プロトタイプによる試験では、EyeDARは従来のレーダー設計よりも200倍以上速くターゲットの方向を特定できたという。さらに、EyeDARは新たな信号を生成・送信する処理を必要とせず、捉えた情報を伝達できる。センサーは、入射するレーダー波を吸収し、それを送信元のレーダーに反射して、0と1のシーケンスとして解釈できる形で送り返すという動作を交互に繰り返す。チョ氏はこれを「点滅するモールス信号のようなものだ」と表現し「EyeDARは話すセンサーだ。レーダーセンシングと通信機能を単一の設計に統合した最初の例だ」と述べている。

チョ氏は、EyeDARのコンパクトで低コスト、かつ複雑でないアーキテクチャと超高速アナログ処理の組み合わせにより、道路や高速道路から、人口密度の高い混雑した都市環境まで広範な導入が可能になり、自動運転車をより安全に走行させることが可能になると主張している。

ただし、専門家のなかには、EyeDARが普及しても期待したほどの効果が得られない可能性があると指摘する人もいる。New Atlasは、製造業に関するエキスパートであるエメカ・モロヌ氏の見解として、「たとえ計算が完璧だったとしても、求められる製造精度は途方もないものだ」「3Dプリンターには、太陽の下で焼かれたり、嵐で凍りついたりしても、欠陥のない何千もの微細な形状を完璧に再現することが求められる。管理された実験室で得られるような複雑なメタマテリアルを、頑丈で大量生産される屋外設置用の製品へとスケールアップすることが究極の難関だ」との言葉を伝えている。

とはいえ、そのような製造上の困難を克服できさえすれば、この技術はレーダーを使う機器全般に恩恵をもたらすだろう。ロボット、ドローン、ウェアラブルデバイスなどに応用することも可能であり、各デバイスは、従来よりも精度の高い周囲認識が可能になるはずだ。

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