今年後半にはESAの探査機による最終的な検証も予定

NASAの地球防衛実験ミッション「DART」が“2つの小惑星の軌道”を変えていたことが判明

Munenori Taniguchi

Image:ASI/NASA

地球に衝突する可能性のある小惑星を発見した際に、人類ができることはふたつある。ひとつは、それが地球に衝突せずに逸れていくことを願うこと。もうひとつは、その小惑星の軌道を変えることだ。

NASAは2021~2022年に、このふたつめの選択肢が可能かどうかを実験によって確かめる二重小惑星方向転換試験(DART:Double Asteroid Redirection Test)ミッションを行った。そして、その後の長期的な観測の結果、NASAは二重小惑星の、両方の軌道を変えることに成功したことが判明した。

DARTミッションは、ディモルフォスと呼ばれる小惑星に重さ600kgほどのDART探査機を時速約2万2500kmで衝突させ、その運動エネルギーでディモルフォスの軌道が変化するかどうかを確認するというものだ。実験の結果、ディモルフォスは主星であるディディモスを公転する周期が約33分短縮されたことがわかった。

今回新たに判明したのは、これまで継続的に行ってきた観測の結果、DART探査機の衝突によってディモルフォスから飛散した岩石の破片の一部が連星系内に閉じ込められて、ふたつの小惑星の相互軌道を変化させた一方で、連星系から飛び出した小惑星の破片もあり、それらが運び去った運動量が、最終的にディディモス・ディモルフォス系全体の重心位置に変化を及ぼしたということだ。

研究者らは、DART探査機からの運動量がどのように伝達されたかを計算するために、ディディモスとディモルフォスの質量を正確に特定する必要があった。そして、太陽中心からの偏向と、ディモルフォスの軌道における既知の変化を関連付けることで、研究者たちは巧妙な数学的トリックを用いて、両小惑星の体積密度を解明することができたという。そして、この発見はディディモス系に関するやや予想外の事実を明らかにした。

Image:NASA

研究チームを率いたイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のラヒル・マカディア氏は「多くの二重小惑星の研究では両方の小惑星の密度が同じという仮定を基にして行われるが、今回はその仮定は正しくなかった」と述べた。

過去22年間の観測データを用い、計算によって求められた主星ディディモスの密度は比較的固体で、かさ密度は約2.6トン/立方メートルという値はケイ酸鉄やケイ酸マグネシウムなどの石質の物質を主成分とするS型小惑星として、標準的な推定値と一致していた。ところが、DART探査機が衝突したほうであるディモルフォスのかさ密度は1.51トン/立方メートルしかなかった。これはわかりやすく言えば、ディモルフォスは岩の塊や塵が緩く結合したふわふわな状態であり、瓦礫の間にはすきまも多数存在する可能性があることを示している。

おそらく数十億年にわたり太陽から不均一に加熱され、その熱放射によって、いびつな形のディディモスは徐々に自転速度を上げていったと考えられる(この現象はヤルコフスキー効果
として知られる)。そしてある時点で、遠心力によってディディモスから剥離して飛散した結合の弱い部分が、ディディモスの周囲を浮遊しながら比較的スカスカなディモルフォスを形成したと考えられるという。

ディディモスの質量はディモルフォスの約200倍と見積もられている。これは、より大きな小惑星系の移動にはさらに莫大な力が求められることを意味している。ディディモスの巨大な慣性力の前では、ディモルフォスが局所的に受けた力はほんの小さなものであり、二重小惑星系全体の重心に変化を与えたものの、ディモルフォスが局所的に受けた偏向からすれば微々たるものだったといえそうだ。

DART実験は、惑星防衛をコンピュータモデルの領域から実践的な実証実験に推し進めるために行われた。マカディア氏は、この目標は達成されたと考えており、「研究結果は、十分な推力があれば、二次小惑星への衝突が二重小惑星系の軌道変更に有効な手段であることを証明している」と述べている。

なおディディモスは、将来地球に衝突する可能性がある危険小惑星(PHA) にも分類されているが、22世紀の終わりまでの間では、地球に最接近しても約586万kmまで(2123年)とされている。DART実験によって生じた軌道のズレがあったとしても、マカディア氏は少なくとも今後100年ほどは、依然として地球にとって全く脅威ではないと説明している。

ちなみに、DARTミッションの結果の最終的な検証は、欧州宇宙機関(ESA)のHera探査機がディディモス系に到着する2026年後半に行われる予定だ。このHeraミッションでは、特にDARTの衝突の影響による軌道や自転の状態、DART探査機の衝突でできたクレーターの形や大きさを調べる予定となっている。さらに、ディディモスとディモルフォスの物性なども約半年かけて観測する。Hera探査機には日本から「はやぶさ2」で実績のある熱赤外カメラが提供、搭載されている。

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